◇第百九十一話◇

「あっ」


学校に到着するや否や、見知った顔を見付けた。


「稜〜!!おっは!」


「あぁ、お前か。涙はもう治まったのか?」


「だから泣いてねーって!!つーか、昨日は桜がゴメンなー!迷惑かけちまって」


「本当にな」


「あ、否定してくれないのね……」


ガックシと肩を落とす蓮。相も変わらず冷たい友人に、何だか寂しくなる。


再び目線を上げると、目の前にはまたまた知っている顔が通ったのが見えた。


「おっ、月野〜!お前も部活か?気合い入ってんなー!」


「あ、二人とも……おはよ……」


「ん?何か元気ねーな?風邪か?」


そんな蓮の問いに対し、春は気まずそうに目を背ける。

何をそんなに言い辛そうにしているのか分からず、首を傾げた。


「蓮、テストの結果覚えてねーのか」


「テスト?……あ」


やっと気付いたらしい。ハッと咄嗟に口を手で塞ぐも、もう既に手遅れである。


「わり、完全に忘れてた……」


「やめて!!謝らないで!!余計惨めになっちゃうでしょ!?」


ギャンッと涙目になりながら抗議する彼女に、同情してしまう。


それはテスト返却の日の事だった。


会話の流れから、廊下でテストの結果を見せ合うことになり、点数や順位等が書かれた紙をせーので出した。


「おっしゃー!!さっすがオーレー!!」


調子に乗って喜ぶ蓮に対し、三人揃って頭に浮かんだ言葉は「これが学年トップの人間か」という感想だった。


「何か絶妙にウザイな……。しかし、やはり朝霧には適わなかったか。地頭が違い過ぎる」


手元にある評価を見ながら、自身の結果に溜め息を吐く。

永遠に超えられない壁が目の前にあるようだった。


「まぁ俺天才だし?梅宮も学年トップじゃねーか!」


「まぁ、な。朝霧を超える一心で頑張ったからな。結局、お前はまた全教科満点だったようだが」


「ふふん。ちゃんと見返したからな〜!んで、稜はどうだったよ」


「まぁ、妥協範囲だろ。俺より、アイツの心配してやれよ」


「アイツ?」


一人ワナワナと震える少女がいた。

そう、それは言うまでもなく春である。


「おかしい……おかしいよ……?何度見ても、結果が変わらないよ……?」


そこに記された結果は、それはそれは凄惨なものであった。


「何度見てもすげーな。ある意味天才だろ、お前」


「ギャッ!!!見ないで!!!」


「ギャて」


隣から覗きこまれ、咄嗟に半歩ほど距離を取る。


思わず後ろに紙を隠すが、ヒョイッと薫に奪われてしまった。


「あ、赤点……四つ、だと……?」


「いやぁ!!言わないで!!」


耳を塞ぐ彼女の逃げ場を無くすように、薫は壁へと追い詰めた。


「春、お前補習は回避したいからって、私と朝霧の二人体制で教えたはずだが?」


「ヒィッ!ごめんなさいぃ〜!」


あまりの高圧的なプレッシャーに、春はまるで小動物のように縮こまってしまった。


「何なら、俺らの言葉足らずな所は稜がカバーしてくれてたもんな」


「お前ら二人は低レベルの人間に教えるの苦手過ぎんだよ」


特に蓮は筋金入りの感覚タイプなために、分からない者には何一つ理解出来ない解説を始めるから厄介である。


「だ、だって……。こんなに酷いなんて思ってなかったもん……」


「もんってお前な……。科目は、えーっと?数Ⅰと古典と……英語と科学か」


一つ一つの教科を確認する。

一教科だけならまだしも、四科目となると春の精神的負担も並大抵のものじゃなくなるだろう。


「教科書に半分以上は答え載ってるのに」


「見ただけで全部覚えられるのは、化け物かお前だけだ」


「ヤダッ、僕照れちゃう……」


「やめろキモい」


「即答やめてよ!」


そんなこんなで、春は結局補講でわざわざ夏休みに学校まで登校することになってしまったのである。

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