◇第百八十九話◇

だが、そんな心配は無用だったらしい。


「何々いきなり、そんな真剣に言われたら照れちゃうよもー!」


キャッキャッと嬉しそうにはしゃぐ桜。

自分にとって、一世一代の告白だった。にも関わらず、これは一目見て分かってしまった。


――伝わってない


「あ、あのね桜……」


「私もねー、茅鶴のこと大好きだよ〜!」


「あ……うん」


こんなに嬉しそうな顔をしている桜に、本当のことなんて言えるわけがなかった。


友達として、好きでいて貰えてる。それだけで充分だ。


(充分、か……)


それならもう、これ以上を望まないようにすれば良い。本当に桜が好きなら、彼女を悲しませるくらいなら、この感情を押し殺してしまった方が良いに決まってる。


「嬉しい。私も桜のこと、友達として大好きだよ」


何故、友達を好きになってしまったのか。こんな辛い思いをするくらいなら、一人でいた方がマシだ。


――でもそれじゃ、桜が悲しむ。桜のために、私は良い友だちでいよう。


それが、まだ心も体も未成熟な自分に出来る、精一杯の努力だ。


「そんな茅鶴こそ、好きな人いるのー?」


「え……あー、うん。いるよ。でも、もう片想いで終わるの目に見えてるから」


「えー!?何で何で!?告っちゃえば良いのに!まだどうなるか分からないじゃん!」


「そう、かな……」


今、盛大に振ってきたのはどこのどいつだと言ってしまいそうになる。

目の前の彼女が愛おしくて仕方がない。


きっと、大人になったら男性と結婚して、普通に子どもを産んで、何処にでもある普通の家族を作るのだろう。


自分とでは、子どもを作ることも、親からの同意だって取れないかもしれない。

もし、万が一、恋人になれたとしても、そこで終わりになってしまう。


(私が男だったら、こんなに悩まなくて済んだのかな)


あの雨夜とかいう人間の顔が、脳裏に焼き付いて離れない。

羨ましい。桜に好かれているアイツが、羨ましくてどうにかなりそうだった。


そこから先は何を話していたのかすら覚えていない。


もう何も、考えたくなかった。


「おやすみ、茅鶴!」


ベッドに横になると、残酷なほどに優しい桜の顔が目の前にあった。


間もなくして彼女の寝息が聞こえてくる。数秒寝顔を眺めた後、我慢していた涙が、零れそうになった。


思わず桜に背を向け、声を押し殺して涙を流す。


「ごめん、ごめん桜……ッ」


――好きになって、ごめんね。


本人に、そんな事は絶対に言えない。


良い友だちでいるためにも、この感情は今日限りで捨ててしまおう。


きっと明日は、良い日になるから。

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