◇第百八十六話◇
「俺の話、聞いちゃった?」
リビングの入口に立っていた茅鶴へ聞く。
彼女はコクリと頷いた。
「あちゃー、いや恥ずいなぁ」
蓮の胸の中で泣きそうになっている桜をどうにかソファに座らせ、茅鶴を向き合うように前の席へ座らせた。
「別にそんな重い話でもねーからさ、過ぎたことだし。忘れてくれ」
こんな時でもヘラヘラと、素顔を隠すように笑う。
重い話じゃないなんて、桜の話を聞いただけでもそんなことは無いと分かる。
「聞かせてくれませんか、この家の事情」
「いやいや、そんなの他所様に話す内容じゃ……」
「失礼なのは承知の上です。知っておきたいんです。桜の、友だちなので」
そう言うと、蓮は困ったように頭を搔く。
この家のことは、家族以外では稜ともう一人、稜の兄しか知らない。
それでも、友人のことは知っておきたい。そういう気持ちも分かる。
それに、隠す必要も特に無かった。ただ話したところで、他人からすればどうでも良い話だからだ。
「スゲーつまんねぇし、聞いたら俺の事嫌いになるかもしんねーけど、それでも良い?」
「はい」
粗方の話はさっき聞かせて貰った。桜を困らせるようなことをしていた事実には、正直腹立たしいところもある。
だが、蓮には蓮の事情だってあるはずだ。
知れることは何でも知っておきたかった。
詳しく聞かせて貰った。
蓮の過去、両親との関係、何故桜を悲しませてしまったのか。
「両親にとって、俺は邪魔な存在だったみたいでさ。いつか、桜たちにも……稜にも、嫌われんじゃって」
顔は笑っているのに、目の奥は光を写していなかった。
今も尚、両親に会う度軽蔑の目を向けられる。そんなこと、自分でも耐えられなかったかもしれない。
「つって?まー稜は俺にベタ惚れなんだけどなー!」
「蓮兄!!茶化さないで!!後ベタ惚れなのは蓮兄だから!!」
「うお、そんな怒んなよ……一応兄さんだぞ俺……」
妹の鬼のような形相に恐怖する。
空気が重くなってきたからちょっとふざけただけなのに、などと文句を垂れる。
「もう良い、稜くんに電話する!!」
「え、何で!?」
「呼び出してここに来てもらう!!それで、蓮兄の不安とか色々受け止めてもらう!!」
「いやめっちゃ迷惑だろ!!」
時刻は既に二十一時を過ぎたところ。
まだ起きている可能性は十分にあるが、こんな時間にわざわざ微妙に遠い距離を来てくれるとは到底思えない。
そんな蓮の抗議を無視し、桜は電話をした。
『こんな時間に何なんだ……』
「もしもし、稜くん?」
「いやもう良いから!」
電話を切ろうとするも、スマホごと取られてしまった。
「今から家に来て欲しいの!」
『は?何で。嫌だ、面倒臭い』
「そう言わないでさ、お願い!蓮兄が泣きそうなの!」
「はぁ!?お前嘘は駄目だろ!!」
電話越しに煩い二人を気にも止めず、少しだけ心配そうな声色に変わった。
『蓮、面倒くせぇからそっちまでは行かないが、電話で良ければ話くらい聞いてやるぞ』
「稜……」
親友のその一言だけで、充分に蓮の心は楽になった気がした。
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