◇第百七十八話◇

「おい、買って来てやったぞ。金寄越せ」


「言い方が強盗のそれなのよ」


既に繋いでいた手は離され、頼まれていた物を二人に渡す。


「春?どうした、顔が赤いぞ?」


「な、何でもありまひぇん……」


「滑舌どうした」


熱を冷ませる物は手元に何も無く、手で頬を覆う。

自身の鼓動が聞こえ、わけも分からないまま、蓮が持ってきたレジャーシートの上に座った。


稜は案の定端に座り、その隣に蓮が座ったため、これ以上自分の顔を見られることは無いだろうと少し安心する。


そして間も無く、大きな花火が打ち上げられた。


「すげー、花火こんな間近で見たの初めて!!」


「私もだ。大体市販のやつすらほとんどやった事ないしな」


「分かる!!一回ダチとやってみてーんだけど、稜に毎回フラれてんの俺!!可哀想!!」


「毎回しつこく誘われる俺の方が可哀想だろ」


何も面白くなさそうな顔で花火を見る。

普通、友だちと花火大会なんてテンションが上がって仕方ないものだろうに。


(暑い。帰りてぇ。バックれれば良かった)


脳内は常にネガティブであった。


「綺麗だなー。なぁ、春」


「う、うん……そうだわね……」


「そうだわね?」


一方、こちらはこちらで、花火のことなどもう考えられなかった。普段の元気は何処いずこへ、声も心無しか小さくなっていた。


(ごめん皆、折角来たっていうのに……!!正直、花火どころじゃないよおおお!!)


四人で遊びに来たというのに、終始邪な感情が春を支配していた。


横目で稜を見ると、立ち上がって春の方へ寄ってきた。


「半分な」


半強制的に春が買ったたこ焼きを差し出した。

そういえばそんな話をしていたなと、過去の自分を思い出す。


「あ、ありがと……」


見ると、まだ手をつけていないようだった。

また元の座っていた所に戻ろうとする稜を引き止める。


「隣、座ってよ」


この状況でこの言葉は、何らおかしな意味など持ちはしない。ただ、隣の方が何かと楽だと思っただけ。ただそれだけだ。


「月野!?俺から稜を奪うってのか!?」


「ち、違うよ!!半分こするなら隣の方が楽でしょ!?」


「私を挟んで喧嘩するなお前ら!!」


ギャンギャンと騒ぐ三人。

だが確かに、一々移動するのは面倒だ。

そう結論付けた稜は、三人に横へ詰めるように言う。


「蓮、邪魔だからそっち寄れ」


「邪魔って何だよ!?泣くよ俺!?」


シッシッと手で払う。相変わらずの扱いの雑さに涙しながら、渋々場所を詰める。


「頭悪いくせに、意外とまともな事言うんだな」


隣へ腰を下ろし、春にそう投げかける。


気のせいか、距離が近い。


きっと、レジャーシートの幅が少し小さいのだろう。


(肩、触れちゃう……)


心臓の音が聞かれないか、不安で仕方なかった。

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