◇第百七十七話◇
「次はー」
頼まれた物を探しに、また屋台を彷徨く。
「おい、あまり近くに寄るな」
「え!?何でよ!」
「周りの視線がウザい」
通りすがりに春を凝視する者、声をかけようか迷っている者など、面倒そうな人物が後を絶たなかった。
「仕方ないよ、私モテるんだもん」
「お前のそういうところ尊敬するな」
自慢げの春に、心底感心するしかなくなる。
ここまでくるといっそ清々しい。
「あ、私あれやりたい!」
嬉々として指を差した方向には、ヨーヨー掬いがあった。
「戻んの遅くなんだろ」
「一回、一回だけ!」
目を輝かせながら、走って屋台へ向かおうとする。
そこへ、通りすがりの男子高校生が歩いて来た。
ぶつかりそうになった春の腕を掴み、自身の方へ引き寄せる。
「おい、はしゃぐな」
バランスを崩し、稜の体にすっぽりと収まってしまった。
「……ふぇ!?」
状況を呑み込むまで、少しばかりの時間を置いた。
瞬間、春の顔はみるみるうちに真っ赤に染まっていく。
「?どうした」
「ひゃっ!!な、何でもないよ!?」
彼女の心中など知らない稜は、暑いのだろうかと首を傾げる。
とはいえ、この人混みの中ではぐれたら面倒臭いことになるのは目に見えている。
仕方なく、手を差し出した。
「ん、」
「えっ!?」
これはどういう意図の手なのか、脳をフル回転させる。
「お前、目を離したら消えそうだから。繋いどけ」
「つな、!?」
下心などなく、サラッとそんなことを言われたのは初めてだった。
(何、この心臓の音……!?顔が熱いのは夏だから……?)
ドキマギしながら、言われた通り手を握る。
手が震える。心臓が高鳴る。目を合わせられない。緊張で、頭の中がどうにかなってしまいそうだった。
「んで?あれやんだろ」
先程春が指差した屋台を見る。だが、彼女はもうそれどころではなくなっていた。
目の前に立っている稜と、目を合わせることすら出来ない。
この感情が一体何なのか、皆目検討が付かなかった。
「いえ……。もう、いい……デス……」
「あ?何故敬語」
そんな二人にタイミングを合わせたかのように、大きな花火が打ち上がった。
「やべぇ、早く戻んねぇと文句言われる」
春のことなど何も気付いていない稜は、そのまま彼女を連れて元いた所へ戻る。
一方、後ろで歩いている春は、息を吸うことすら困難だったという。
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