◇第百七十二話◇

「あの……っ」


彼女たちの中の一人が、母親に話し掛けた。


「あ、謝っても許されることじゃないって分かってます。恨まれて当然だって……。でも、どうしてもこれだけは言いたくて」


心の準備が必要なのか、三人で目を合わせ、数秒の間を置いた。


「「私たちのせいで、本当にすみませんでした!!!」」


涙ながらに、一斉に勢いよく頭を下げた。

少し驚いた様子の母親だったが、すぐに言葉を返す。


「正直、まだあなたたちを許す事は出来ない。とても恨んでいるわ」


これからもずっと、楽しい時も嬉しい時もふとした瞬間、思い出すかもしれない。忘れることなんて、一生出来ないのかもしれない。


死ぬまで恨まれ続けられるかもしれない。

それが、とても怖くて仕方がなかった。


体が勝手に震える。涙が溢れて止まらない。次の言葉を聞くのが怖くて、怖くて、堪らなかった。


「でも」


頭を下げている彼女たちに目線を合わせるように、しゃがみ込んだ。

視界に入った母親と目が合う。


「紗香の誕生日、覚えててくれてありがとう。お墓参り、来てくれてありがとう」


泣きそうな声で、母親は彼女たちにそう伝えた。

いくらでも恨み言を言われる覚悟は出来ていたのに、ありがとう、なんて言葉を自分たちが貰えるなんて、微塵も考えていなかった。


「それから白鳥先生。気が動転していたとはいえ、酷いことをたくさん言ってしまって申し訳ありませんでした……!」


深々と頭を下げる母親。当時、娘をいきなり亡くしてしまったこの人は、きっと自分よりも辛い思いをこの数年間抱え続けていたのだろう。


紗香のことを止められなかったのは自分だ。だから、あの時いくら責め立てられても言い返すことなど出来なかった。


「顔を上げてください。お母様は何も悪くありませんから」


謝られるようなことを、この人は何もしていない。

誰もがあの事件で、心に深い傷を負ってしまった。


もう二度と、自分の誤った選択で最悪な道を選ばせたくない。


後悔してもしきれないあの事件は、きっと一瞬たりとも忘れることなどできないのだろう。


それこそ、“死”にまで追いやってしまった彼女たち三人は特に。


「もし許されるなら、友だちとしてやり直したいな」


「……そうだね」


「うん」


やり直せるのなら、今度こそは失わないように。

失われたものは、二度と戻ってこないのだから。

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