◇第百六十九話◇
数秒沈黙を続けると、校長は気を使うように話を振った。
「話したくなければ大丈夫ですよ。アナタは悪い人じゃないでしょうから」
何でも見通しているような、そんな感じがした。
人の内面など、誰も知ろうとしない。そう思っていたのに、この校長は何だか、良い意味で人間らしさを感じられなかった。
「……いえ、話します」
この人ならきっと、頭ごなしに否定などしない。どこかそんな気がした。
前の学校での出来事を一つ一つ丁寧に説明する。
何一つ隠さず、覚えていることを全て。
すると、校長は少しだけ俯いた。
「そうですか。話してくれて、ありがとうございます」
誠の話を疑う素振りは無く、笑顔で応える。
正直なところ、問題を起こした教師である自分を雇ったこの学校の校長に、誠は少しばかり不信感を抱いていた。
「この学校には、そういった問題を抱えた教師や生徒が沢山集まってくるんです。きっと、白鳥先生の求めていた物も見つかるでしょう」
「私の、求めているもの……」
この学校では自分のような人間は珍しくない。その事実が、少しだけ安心感を与えてくれた。
本当に、見付けられるのだろうか。
それはまだ分からない。
──でも
「私を、ここで働かせて下さい」
きっとこの学校は、ちゃんと見ていてくれる。
もう二度と同じ過ちは繰り返さないように、絶対に生徒を守るために。
「こちらこそ、よろしくお願いします。白鳥先生」
ここで働こうと決めたのだ。
「失礼しました」
扉を開け廊下に出ると、目の前には鳴海が待っていた。
「鳴海、何で」
「……誠、今の話……本当……?」
鳴海のことだ。聞き耳を立てていたわけじゃなく、純粋に待っていただけなのだろう。
聞かれてしまったのは仕方がない。弁解する必要など無いのだから。
「本当だ。だから異動になった」
「そっか……。ごめん、俺そんなことがあったなんて知らなかったから……」
「おい、気にすんなよ。らしくねーな」
自分の無神経ぶりに肩をすくませる鳴海を宥める。
気持ちは分からなくもなかった。誠自身も彼と同じ立場であれば気を使っただろう。
だが、今はそんなことよりも、鳴海の存在が誠にとっては大きかった。
「もっと鳴海らしく、馬鹿やっててくれよ。お前といると、嫌な気持ちとかが無くなってくれる」
「誠……」
前の校長や彼女たちの親、そして自分自身に失望していた。負の感情を消すには、他人からの支えが必要だった。
そんなもの、自分から求めるわけにはいかない。だから、学生時代仲の良かった鳴海の存在が、何より誠の心を楽にさせていた。
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