◇第百六十八話◇

「青京学園、ですか」


数日後、校長から推薦状を出しておいたと告げられた。

それが青京学園という高校らしい。


「他にも募集しているところはあったんですがね。何分、たった一人の生徒も守れなかった教師というレッテルが貼られてるんでね」


棘のある校長の言葉に、眉をヒクつかせる。

心身ともに疲れ果てている誠には、何も言い返す余裕は無かった。


そして面接当日。休日の青京学園へと足を踏み入れた。


「デケェ……。校長室何処だ?」


キョロキョロと辺りを見回していると、背後から声をかけられた。


「何かお探しですかー?」


「あ、はい。あの」


振り向くと、そこには高校の同級生が立っていた。

一瞬誰なのか分からず思考を停止してしまったが、そういえばコイツもこの学校に赴任していたなと合点がいく。


「鳴海!」


「え……ま、誠!?」


久しぶりに会った同級生に、地獄のようだった世界が少しだけ明るくなった気がした。


「もしかして異動!?まだ二年目だよな!?」


「あ、あぁ。色々あって……」


「そっか。じゃあ校長室探してんだ?」


「まぁ。ここめちゃくちゃデケェな。迷子になりそうだ」


そのまま鳴海に案内され、校長室を目指す。

道中、他愛もない会話をする彼に、まるであれは夢だったのではないかと思い始めていた。


「着いたぞ。ここが校長室……あれ、プレートが無ぇ?」


「ここ、空き教室じゃないか?」


「あ、校舎間違えた!!」


相変わらずの天然ボケっぷりに、クスリと笑った。


(あの日から初めて笑った気がすんな)


もう二度と笑顔なんて作れないと思っていたが、鳴海はそんなことを簡単に吹き飛ばすことができて凄いなと感心した。


「なぁ、まこっちゃん。久しぶりにあったんだしさ、夜どっか飲みにでも行かね?」


「飲みに、か……」


そういえば最近、缶酒すらも口にしていなかったなと思い返す。


「そうだな」


これ以上自分を責め続けても何も変わらない。

紗香は優しい子だった。そんな彼女が好きになってくれた自分を嫌いになんて、なりたくなかったのだ。


何とか無事に校長室まで辿り着き、面接が執り行われる。


「──というのが、私が聞いたキミの全ての情報なんですが」


やはり、悪い情報しかなかった。

だが間違っているところは何一つ無い。


(ここも、きっと変わらないだろう)


期待はしていない。教師は、学校とはそういう場所なのだと知ってしまったから。


だから、青京学園の校長が放った言葉は衝撃的だった。


「白鳥先生の話を聞かせて下さい」


「……え?」


そんな言葉、予想すらしていなかった。


自分の話を真っ直ぐ聞いてくれるのか。

でも、また皮肉を言われるかもしれない。

否定されるかもしれない。

そう思うと、簡単に口を開くことは出来なかった。

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