◇第百六十七話◇
下から叫び声が聞こえる。誰かが泣き叫んでいる。
誰かが救急車と警察を呼んでいるようだ。
「たち、ば、な……?」
分からない。今、一体何が起こったのか。
紗香が目の前から消えた。その光景だけが鮮明に頭に残った。
「あ、あ、」
──俺のせい?俺が余計なことをしたから?
「ああああああああああああああ!!!!」
その場に崩れ落ちた。
自分が追い詰めたのか?だから自殺したのか?
余計なことさえしなければ、今も彼女は目の前で笑っていただろうか。
──間違ってた。最初から全てが間違ってたんだ。
気付いた頃にはもう遅い。
もう、後戻りなんて出来ないのだから。
次の日、校長室に呼び出された。
紗香は即死だったようだ。
「キミがもっと適切な処置をしていればこんなことにならなかったんじゃないかね」
「そうですね」
後ろには泣いている紗香の両親が、ソファに座っていた。
「優秀だからって、まだ担任を任せるべきじゃなかった。キミが最悪な事態を招いたんだ。どうなるか、分かっていますよね」
(知らないフリをしたくせに)
もうどうなっても良いと思った。どんなに非道なことをされようと、もう彼女は戻ってこないのだから。
「キミには、学校を辞めてもらう」
覚悟していた。何となく分かっていたから。
彼女の苦しみに寄り添えきれなかった自分が悪い。
だが、生徒の訴えに答えなかった学校も悪い。
自分の子の嘘に気付けなかった親も悪い。
だが、もう誰が悪いだとか、そういう次元の話ではなくなってしまった。
「安心したまえ。次の学校はこちらで候補を募っておこう」
「……ありがとう、ございます」
反吐が出る。これが大人の世界。これが、教師の世界なのか。
自分が憧れた教師は、こんなものだったのか。
「何で……」
後ろで泣いていた母親が、徐に誠の元へ寄っていく。
「何で、紗香の苦しみに気付いていながら、助けてくれなかったんですか!!」
母親は誠の服の裾を掴み、泣き崩れた。
誠はその姿を、見ていることしか出来なかった。
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