◇第百六十四話◇
それから何回か彼女の話を聞いてあげた。
相談だけではなく、彼女の心の拠り所になってあげるために。
「先生、今日ね!晩御飯ハヤシライスだって!」
「へぇ、良いな!先生も家行っちゃおうかな〜」
「今から行っても材料足りないよー」
彼女はよく笑うようになった。
学校にもちゃんと毎日通い続けているが、出来る限り一人にはならないように気を付けた。
三人は周りの目を気にしている。善人だと思わせ、異性に媚びるように優しい顔をする。
誰だって騙されるくらいに、狡猾だった。
そして数日後、事件は起こった。
「
それは彼女たちからの突然の誘いだった。
ここで断れば、きっと後でもっと酷い目にあわされる。
周りはその様子を微笑ましそうに見ていた。
(誰も気付いてないんだ)
裏があることに、誰も気付いてくれない。
“良い子”のふりをして、誰かを貶めていないと落ち着かないのだろう。
(でもどんなこと言われたって、もう良い。私には先生がいるから)
どんなに馬鹿にされたって、痛い思いをしたって、自分が我慢すれば全部丸く収まる。
彼女たちに言われるがまま、後ろを着いて行った。
「着いたわよ」
一人がそう言う。
そこには、ゲームセンターなんて物はどこにも見当たらなかった。
「えっ、と……」
「あーホント、私たちの引き立て役になってくれて本当ありがたいわー」
目の前には廃ビル。嫌な予感がし、数歩後ろに下がった。
「ちょいちょい、逃げんじゃねーよ。ぼっちだったアンタを仲間に入れてあげてんだぞこっちは。なぁ?」
「あの……」
何が何だか分からず、足が竦む。
彼女たちの威圧的な態度が怖くてたまらなかった。
「お礼だよ、お・れ・い」
「金寄越せって言ってんの」
「お、お金……?」
「そ。まー、一週間後までに一人十万くらい?だから計三十万よろしく」
「さ、三十万!?」
そんなもの用意出来るはずが無い。
生活費を払うことだって大変なのだから。
「今からバイト始めて、二十四時間ずっと働き続ければ貯まるでしょ?簡単じゃない」
「む、無理だよそんな──」
「口答えしてんじゃねーよ」
自分だけが追い詰められるだけならまだ大丈夫だった。我慢さえすれば、終わる話だったから。
でも、毎日汗水垂らして働いている両親まで巻き込むわけにはいかない。
どうすれば良いのか分からない。
(先生なら、助けてくれるかもしれない)
一人では背負いきれなかった。
でも、教師なら、大人ならきっと何とかしてくれる。
そう思い、翌日誠に相談した。
「……そうか」
それだけ呟くと、暫く黙り込んだ。
本当は迷惑だと思われているかもしれない。
(先生を困らせたいわけじゃないのに……)
本当は自分の問題なのに、それを誠にまで押し付けている自分のことが嫌いになりそうだった。
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