◇第百六十三話◇

《白鳥 誠 二十三歳の夏》





真夏日、誠は教師歴二年目にして初めての担任を任されていた。


「三人一組作れー。一人あまるだろうから、一組だけ四人な!」


「えー!!」


四人組で仲の良いグループは珍しい。三人グループは大体決まったが、やはり四人グループが決まらない。


「また橘さん余ってる。入れてあげようよ」


「そうだね、たまには四人も良いかも」


「橘さん、ウチらのグループ来なよ」


女生徒三人組が、余り枠であった橘という生徒をグループに呼んだ。


「あ、ありがとう」


よそよそしくそのグループに混ざる。その様子から、どうやらクラスに友人ができないようだ。


(皆優しいから最終的には一人にならずに済んでるけど、友だちの一人くらいは作って欲しいな……)


担任として心配になる。

学校は勉強をするだけの場所ではない。人と上手く関わることもこの先必要となってくる。


何より、社会人になると友人との付き合いは段々と減っていってしまう。


今からでも遅くはないだろう。中に入れてあげた三人と仲良くなってくれると、担任としても嬉しい限りだ。


数ヶ月後、少しだけ涼しくなってきた頃。

校舎裏を通りかかると、鼻をすするような音が聞こえた。


校舎の角から覗いてみると、そこには彼女がいた。


「……橘?」


声をかけると、驚いた顔でこちらを見る。


彼女は泣いていた。


「白鳥、先生……」


何かあったのか、そう尋ねると言うべきか迷いながら、彼女は口を開く。


「……私、学校……やめたくて……」


震えながら、その言葉を口にする。


「辛くて、学校に来るだけで苦しいんです……」


助けを求めるかのように、誠を見る。

涙を浮かべ、今にも感情が爆発してしまいそうな彼女の顔は、見るに堪えなかった。


「ゆっくりで良い。何があったか話してくれる?」


誠はそんな彼女を救いたいと思った。

震える声でゆっくりと話し始める。


話を聞く限り、どうやら彼女はクラスで虐めを受けているらしい。

暴力などではなく、精神的に追い詰められているようだった。


罵倒されるのは当たり前。何か一つでも小さな失敗をすると馬鹿にされる。


パシリや授業の準備もさせられ、時間に間に合わなければ怒られる。


そんな毎日をずっと送ってきたと、彼女は訴えた。


「……そうだったんだ。ごめん、気付いてあげられなくて」


「先生は何も悪くないです……。私が弱いからいけないんです……」


虐めの問題は常に議題に挙げられる。

高校生にもなると、生徒によっては狡賢く、教師にバレないように誰かを貶める。


こんなに苦しんでいる子が目の前にいる。見過ごすわけには絶対にいかない。


「誰が橘を虐めてんだ?」


そう聞くと、彼女は更に涙を浮かべた。


「よ……吉田さんと小倉さん……。後、川内さんが……」


「え……?」


その三人は、以前グループを作る時に彼女を誘った生徒たちだった。


あの時は優しい子たちだと思っていたのに、裏でそんなことが起きていたとは考えもしていなかった。


確かにあれから、四人でいるところを見たこともあったが、それは仲良くしてくれているのだと思い込んでいたのだ。


「分かった、言ってくれてありがとう」


そう言うと、彼女はコクンと頷いた。

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