◇第百六十話◇

「生徒に深く干渉しすぎることが、必ずしも良い方向に転ぶとは限らないだろ?」


「そういうものですか」


「そういうものなのよ」


生徒である稜にはよく分からない。

面倒だとは思うかもしれないが、それがどう悪い方向に行ってしまうのか。数年教師をして来た誠とは違い、人間が嫌いな稜には理解し難かった。


三者と呼んでいいものか、面談は終わり身支度を整え、下駄箱まで向かう。


道中、廊下でバッタリと蓮に遭遇し、案の定捕まってしまった。


「稜!お前も面談終わりか?」


蓮は両親とあまり仲が良くない。

同じく二者面談の形で終わったのだろう。


チラチラと稜の後ろを気にする仕草をする。


「兄貴はバイトでいないぞ」


「マジ?最近全然会ってねぇと思ったら、バイトしてんのか」


今稜の兄は大学一年生だ。学校もあり、授業が終わるとそのままバイト先まで直行。そのため、稜自身も兄の顔は久しく見ていない。


「俺あの人苦手なんだよなー……。嫌いじゃねぇんだけど、なんかこう……独特?俺とは合わねぇ人だよな」


「向こうが合わせようとしてないからな」


「俺嫌われてるしな!!悲しいことに!!」


何故か胸を張る蓮。

自慢出来るところなどあっただろうか。十年ほどの付き合いではあるが、未だに稜は彼のことを変人だと思っている。


「あ、帰る前にちょっとだけ食堂寄っていい?喉乾いた」


「じゃあ先帰る」


「おい!!冷てぇな!!そんな時間かかんねーよ!!」


ズルズルと引き摺られるように食堂まで連行される。

自販機で水を買い、それを飲みながらまた下駄箱の方まで向かって行く。


「あ、雨夜くんと朝霧くん」


またバッタリと見知った顔が、目の前に現れた。


「月野!これから面談?」


「うん。描いてた絵が途中になっちゃったんだけど……。正直面倒臭い。誰か変わってくれないかな」


「心の声がダダ漏れなんですが」


手には僅かに絵の具が付着していた。

以前、美術部に入ろうか迷っていたが、いつの間にか入部していたらしい。


「今何描いてんだ?見たいんだけど」


「見る?文化祭の展示用作品を今模索中だから、是非ともアドバイス欲しいです」


「俺らタメになるようなこと多分言えねぇけど……」


アドバイス、なんてものが出来るわけがない。

プロの作品を見たところで、何となく「上手い」ということしか分からないのだから。


さっさと帰りたい稜をまたもや美術室まで引っ張って行く。


「帰らせてくれ……」


「良いじゃん、どうせ暇だろ?」


「セオドアが家で待ってんだぞ」


「ペットかよ」


何を真面目な顔で言っているのか。いつでも読める物なのだから、後回しで良いだろう。という、興味の無い者しか考えないであろうことを、蓮は非情にも思っていた。

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