◇第百五十九話◇
家に付くなり、ケータイを開いてLIMEを送る。
『三者面談、お前来れる?』
黙っていた方が自分に都合の良いことは分かっている。だが、バレた時の方がとてつもなく厄介なこともまた分かっていた。
そして何より、答えは既に分かりきっている。
『ごめん!その日も仕事で帰れなさそう(泣)』
今も恐らく仕事中だというのに、返信が早い。
休憩中だったのだろう。
「まぁ、そうだろうな」
稜は配られたプリントを見ながら、溜め息を吐いた。
「こんなん、俺には意味ねーのに……」
結局面談するのは自分だけだ。
取り合えず担任に伝えておけば良いわけで、誠なら手っ取り早く済みそうだ。
二者面談と内容はほとんど変わらないだろう。
「無駄な時間だな」
また同じように手っ取り早く終わらせてしまおう。そう思った稜であった。
そして早くも夏休みに入る一週間前。
「雨夜は……そっか。お兄さん都合合わなかったんだっけ」
「はい。仕事です」
「そかそか。今大学生なんだっけ?大変そうだね」
誠と二人だけの教室。向かい合わせに椅子に座ると、誠は手元の資料に軽く目を通した。
「早速だけど、雨夜は授業態度も申し分無いし、テストの点数も今回真ん中より上だったから、成績は問題無いだろうね」
「そうですか」
問題が無いのなら早く帰して欲しい。そんなことを思いながら、時計の針を見つめる。
「そろそろ学校にも慣れて来ただろうし、二年に上がったら理数系か文系選ばないといけないんだけど、今のところ希望ある?」
「理数系ですかね。覚えるの嫌いなんで」
「うんうん、そういう理由でも良いと思うよ」
和やかな目で頷く。
事実、何処の学校でも選択教科をテキトーに選ぶ生徒はざらにいる。
どちらを選んでも、結局は将来に大きく影響することはあまり無い。
だから、誠は稜の成績、選択授業、その他勉強面で問題視していることは無かった。
「雨夜はまぁ、有って無いような校則もちゃんと守ってる優等生だけど、まだ一回も笑ったり怒ったりしてるところ見たことないからさ。心配で」
「……大丈夫です。俺は元々こんなんなんで」
「それが心配なんだって〜」
教師だから、生徒を気にかけることは何らおかしなことではない。
生徒の悩みや苦しみを理解してあげたいとは思っても、誠にはそれが出来なかった。
「白鳥先生は、最初いい加減な人かと思ってました」
「ましたって、実際そうなんだけど〜」
テヘヘ、と何故か照れ臭そうに笑う。
この人が、この性格で教師をやれるのはここしか無かったのだろうと思っていた。
だが、今ではもう分からない。
「いくら生徒を気にかけたって、給料は増えませんよね」
「おぉ……よく知ってんなぁ……」
「知り合いに教師やってる人がいるんで。先生には何も得が無いのに、何で意味の無いことしようとするんですか」
「意味無いって……」
よくまぁズケズケと担任に言ってくるものだと、誠は少しだけ狼狽える。
確かに得など無いかもしれない。
それでも、見て見ぬふりをするのが怖かった。
「生徒って、皆色んな悩みを持ってて、皆個性も性格も全然違うんだよ」
当たり前なことなのに、それを知らない教師だって沢山いる。
教師の仕事は、勉強を教えることだけじゃないのだと、誠はそう信じていた。
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