◇第二十話◇
「……稜?」
賑やかな廊下で帰りの支度を終えた蓮は、稜を探しに今まで校内を彷徨いていた。何処にも見当たらず、仕方なしに教室の前へと戻って来た時、稜が見ず知らずの少年と一緒にいるところを目撃する。
「えっ、え!?誰々その子!!俺というものがありながら浮気ですか!!」
信じられないとでも言うような勢いで駆け寄ってきた蓮に驚く奏。反して稜は、そういえばこんな奴もいたなと面倒そうに溜め息を吐きだす。
「あ、雨夜くんのお友達?初めまして、今日から晴れて雨夜くんのお友達になりました、皐月林 奏です」
「お友達!?うっそマジか!!」
まるで結婚報告のようなノリで自己紹介をする奏。まさか自分の親友に自分以外の友人が出来るだなんて思ってもみなかった蓮は、動揺を隠せない。が、あからさまに嬉しそうなのは見て分かる。
「俺朝霧 蓮!友だちの友だちは友だちってな!!よろしくな、皐月!!」
「うーん?何で皆間違えるの?林に何か恨みでもあるの??よろしくね??」
誰一人として正解者が出て来ず、もう改名した方が早いのではないかと考える。たった三文字長いだけだというのに、皆して略そうとするのは寧ろ、何か裏があるのではないかと疑った。
名前間違えを気にしながらも、よろしくする辺り蓮のハイテンションを受け入れることは出来そうである。さすがは副学級委員といったところか。関係あるのだろうか。
「なーんか、稜に友だちって変な感じだな」
「そうなの?」
「あー。コイツ、小学生の頃からこんなんだったからな」
「可愛くないね」
散々な言われように、余計なお世話だと文句を言いかけるが、当然の如く抗議はしない。というのも、昨日と今日のことだけでかなりの労力を剥ぎ取られてしまったからだ。
悪気の無い二人に対し、だからこそ腹を立てながらもテキトーに受け流す。
「今更だけどよ、皐月って女子みたいな顔してるよな」
「だから、皐月林だって……。確かに可愛い顔してるかもしれないけど。僕可愛いけど」
「うわマジかこいつ」
久しぶりにマジトーンの声でドン引きする蓮。自分で可愛いと言ってしまう男子は、色々と頭のネジが抜けていると聞いたことが有るような無いような。
「でも嫌なこともあるんだよ。電車で痴漢されたこともあるくらいだし」
「何その面白エピソード!?良いねそういうの、もっと頂戴!!」
「そんなに喜ばれるならもうあげないよ!!」
一人でゲラゲラと腹を抱えて笑い転げる。確かに凄い話だが、面白要素があったとは言えない。が、コイツだからなと一人納得する稜。
「皐月って下手したら女子より可愛いかもな。少なくとも梅宮よりは可愛いと思うぜ、俺は」
「梅宮?」
何か聞いたことのある名前だと記憶を探り始めた時、会話に割り込むようにして少し低めの女子の声が入ってきた。
「誰が可愛くないって」
「いや〜、だって本当のこと……ううう梅宮!?」
背後からヌッと現れたのは薫だった。知り合ってまだ間もない男に「可愛くない」と言われ、心無しか少しムッとした表情をする。
「あ、梅宮さんってキミか〜。同じクラスの」
「副学級委員の、確か皐月だったか。近くで見ると更に小さいな」
「小さくない!!梅宮さんだって同じくらいじゃんか!!」
「女子と身長比べるって、虚しくならないのか」
名前間違えの上、更に身長まで馬鹿にされるとは、可哀想なことこの上ない。そこに追い討ちを掛けるわけではないが、二センチ差で薫の方が身長が高かったりするのだ。追い討ちは掛けていないが。
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