◇第十八話◇

「出席番号順に面談していきまーす。今日は他に予定も無いんで、終わった人から帰ってオッケーです」


今日は待ちに待った面談の日。出席番号が速い人物は喜び、逆に遅い人は項垂れる。


稜は出席番号一番。表情には出さず、静かに心の中でガッツポーズを取る。


教室前の廊下に椅子を二つ、机を一つ並べ、向かい合って座る。


「雨夜くん、何か今後のことで不安だなって──」


「特に無いです」


「早っ」


昨日買った漫画と小説の続きが気になって仕方ない稜は、いつも以上に早く帰りたいと一刻も早く面談を終わらせるために、受け答えをハッキリと、そして物凄く早く答える。


「いやいや、何かあるでしょ。授業追いつけるか心配とかさ」


「無いです」


「天才かよ」


相談してまで訴えたいものが無いだけなのだろうが、この状況ではただの天才である。


「そんなんじゃすぐ終わっちゃうじゃん。良いの?本当に終わっちゃうよ?」


「終わって下さい」


「あら〜」


正直なところ、誠は誠ですぐ終わらせたいタイプであるため、稜のような性格の生徒の方がありがたかったりするのである。


気の弱そうな生徒は最悪の場合虐めにすら発展するだろうが、それならば見ただけですぐ分かる。寧ろこんな教師でも無駄に場を踏んでいるワケではないのだから、それくらい分かって当然なのだろうが。


結局それだけで面談は終えられ、薫と入れ違いに教室へ入り、中身がほとんど入っていないスクールバッグを抱えて教室を出ようとする。


「雨夜くん、ちょっと後で良いかな」


さぁ、帰ろうと息巻いて気分を高揚させていたところに、引き止める言葉が聞こえて来てしまい、少々驚き気味に声の主へと顔を向けた。そこにはつい昨日店で鉢合わせた少年、奏がいた。


「もし良いなら、そこの階段で待ってて欲しい。僕出席番号結構早いし、あまり待たせることはしないと思うから」


静かな教室でこんなセリフを口にしていたら、誰だって何事かと思うだろう。が、教室内はこれでもかというほどに騒がしく、誰一人として聞き取れた者はいなかった。


奏はそれだけ言うと自分の席へ戻り、何事も無かったかのように他の生徒とワイワイ楽しそうにはしゃぐ。


稜はというと、普段ならきっとすぐ帰っていただろうが、呼び出された理由は漠然とだが分かる。今回ばかりは無視出来ない案件だと、稜は教室の近くにある階段の横で待つことにした。




暫く経ち、少しずつ他のクラスの生徒たちが帰り始める。その中に紛れ、薫の姿があった。


「雨夜、帰らないのか?」


朝霧を待っているのか、とも思ったようだが、それにしては顔付きが違う。その上、待つなら人通りの多い此処ではなく下駄箱近くの広場で待っていそうなものだと、仮説を立てる。


勿論返事はない。が、昨日のことで大体の性格は理解したらしく、特に気にする素振りも見せず、その下駄箱付近の広場で春を待った。


薫の面談が終わったということは、後少しだ。奏の出席番号は把握していないが、さ行なら恐らくもうすぐ終わる。


と、思っていた中、三組は今のところかなりハイペースで終わっているのか、奏の面談も終えられたらしい。スクールバッグを持って教室から出てきた奏と目が合う。


「待たせちゃってゴメンね。此処じゃなんだから、ちょっと屋上の所の踊り場行こう」


別段断る理由も無いため、全てを奏に任せ、無言で後をついて行く。

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