◇第十六話◇

三人でワイワイと楽しそうにはしゃぐ。それを通行人Aさん、Bさん、その他大勢の方々は微笑ましそうに、または頭上に疑問符を浮かべながら見ている。内容こそ全く微笑ましい内容ではないのだが。


「で、お前らは何か入りたい部活とかあんの?」


「入りたい部活か。私は今のところ水泳部だな。春は確か、美術部だったか?」


「うん。本当は手芸部と悩んだんだけど、私絵描くの好きだし」


どうやら春は、頭が悪い代わりに──基、勉強嫌いの代わりに芸術的なことが好きらしい。手芸部が候補に挙げられていたということは、少なからず縫い物なども好きだということなのだろう。


「俺はまだ決めてねぇんだよなぁ……。稜は何の部活──って、またいねぇ!?」


再び忽然と姿を消してしまった男。目を離した瞬間に何処かにいなくなるって、まるで子どものようだ。気持ちは分かるが、少しくらいこの訳の分からない三人の会話に参加してあげても良いのではないだろうか。参加……。天地がひっくり返っても有り得ないことではあるが。


「まるで野生動物じゃねぇか……。あながち間違ってもねぇけどよ」


「雨夜は野生動物だったのか」


「いや、違うと思う」


まるで漫才のようなやり取りをする三人だったが、肝心の稜はといえば。


近所の本屋で最近ハマっている小説の最新刊を探しに来ていた。短編ものではなく、連載ものらしい。勿論これもミステリー小説。


表紙にはホームズのような格好をした男性の絵が書かれており、如何にもそれらしい作品だ。


目当ての物が見つかり、早速レジへ向かおうとしたところ。ふと目に止まったのは、ホラー漫画であった。普通は小説と漫画は別々に分けられるものだが、丁度小説と漫画が区切られている通路だったため、振り返った時に嫌でも目に入ってきてしまう。その上、“人気ナンバーワン”とデカデカと書かれたプレートがあれば、尚更だ。


ホラー漫画のはずだが、その本棚には確実に少女漫画をベースとしたジャンルの漫画が置かれていた。にも関わらず、何故そこにホラー漫画が置かれているのかというと、理由は簡単である。少女漫画として区切られているホラー漫画であるからだ。


裏表紙に書かれているあらすじを見ただけでも、本の面白さが伝わってくる。一巻だけなら、気に入る作品でなくとも許せる。買うか買わないか五分ほど迷った挙句、結局買うことに決めたらしい。


目当ての本ともう一冊を片手で持ち、会計を済ませ近くにあった椅子に座り読み耽る。


開いたのはホラー漫画の方だった。小説は絵が無い分、読むのに時間がかかってしまう。反して漫画は、同様の理由で速く読むことが出来る。


予想以上に面白かったようで、ペラペラとページを捲り続ける。


「雨夜くん?」


漫画を読むことに集中していたところに自分の名を呼ぶ声が聞こえ、驚き顔を上げた。


目の前には、茶髪で小柄な少年の顔。この顔、何処かで見覚えがあると記憶を探る。


「あー、やっぱり雨夜くんか。僕のこと覚えてる?同じ三組なんだけど」


出来たら覚えていて欲しいなとでも言いそうな顔で自身の顔を指差す少年。それに対し、言葉にせずとも興味が無いと分かるような表情をしながら本に目を戻す稜。


「ちょっ、無視って酷くない!?そりゃ確かに印象薄いかもしれないけど!!」


無視されたことに落ち込む素振りは無かったが、声を掛けても無反応の人間を見るのはこれが初めてだったらしい。いや、寧ろ初めてではない方がレアなケースだが。


「副学級委員の皐月林奏っていうんだけど……。ねぇ、ちょっとくらい応えてくれても良くない?そんなに僕鬱陶しい??」


本の続きが気になるというのに、ずっと話し続ける少年──奏に不満を覚える。一方、奏の方もここまで話しかけても無反応を貫き通す稜に、少しばかり寂しさを感じ始めていた。

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