◇第十五話◇
「え、稜が?マジ!?」
「あぁ。私たちと親睦を深めたいから一緒に帰りたい、と言っていたぞ」
数分後、四組も授業を終え、解散になった。そこで、薫が二人を捕まえ先程の提案を伝える。少々、いやかなり飛躍されている気がするが。
そんな事一度も言っていないというオーラを発したが、当の本人方は気付く素振りすら見せなかった。が、たった一人だけその稜の訴えに苦笑いを向ける人物が。そう、春だった。
「雨夜くん絶対言ってないよね、それ」
「何を言う。確かに提案したのは私だが、何も答えなかったという事はイコール了承したという事だろう?」
「そういうところ凄いね、尊敬しちゃう。意味が分からなさ過ぎて」
棘のある言葉をさり気なく言う。顔に似合わず意外と毒舌らしい。罵倒されている事を全く自覚せず、寧ろ褒められていると思い込み照れ笑いをする薫。
「まぁ、そう褒めるな」
「どう考えても褒めてないけどね」
確かに尊敬するとは言ったけれど、それをどう考えれば賞賛されていると思えるのだろうか。と、春は笑顔のまま疑問を抱く。
何故か四人仲良く帰路に着くことになってしまった。何がどうしてこうなったと、眉をヒク付かせる稜。辺りには赤い夕日が差し込み、美しい景色を創り出す。
「夕日だよ夕日。ヤバくね?トマトみたいじゃね?めっちゃ赤いんだけど!」
「トマトというより林檎だろう。少なくとも私は林檎派だ」
「じゃあ間を取ってトマゴで良いんじゃね?何か格好良くね、トマゴって」
「ポケ○ンにいそうだな」
小学生でもしないような会話を繰り広げられ、ついていけない二人は無言で帰り道を歩き続ける。気まずい空気を何とか打破しようと試みる春ではあったが、声を掛けようとしても相手が稜であれば中々出来ることではない。
今日の朝ごはん何だった?は違うし、趣味なんて聞いても上手い返し出来そうにないし、好きな科目なんて一番どうでも良いし……等々、心の中で葛藤を続ける。
彼女はこれでもかというほど勉強が嫌いで、成績も下の中、良くても中の下低度。なら授業の話など以ての外、という事も頷ける。
「今度飯でも食いに行くか。稜も四人なら行ってくれ──」
「断る」
「なーんでだよー!!」
気を効かせたわけでは無いが、空気を一切読まずズケズケと重い空気を、真正面から割って入れるこの図太い神経には驚かされる。しかし、答えはいつだって決まっていた。今までイエスと答えた事はあったのだろうか。
「トマゴ屋でも行ってみるか」
まだその話続いていたのか、と心の中でツッコミを入れる稜である。そんな得体の知れない店に誰が好き好んで行くのだろうか。甚だ疑問である。
「梅宮ってクールに見えて結構馬鹿だよな」
「それ、お前には言われたくないな」
「お?俺ってそんなクールな男に見える?」
「良いところだけ抜き取るな」
最もである。目付きが悪いこととクールなことは全く別の意味を持っていることを知らないのだろうか。いや、知っている知らない以前に何も考えていないのだろう。でなければ、こんな前向きなことは言えない。
「そういや、授業開始っていつからだっけ」
会話の流れを真っ二つにぶった斬り、質問を投げかける。仲の善し悪し関係なく、この調子で喋り続けられるのは、ある意味凄いことなのではないだろうか。
「来週の月曜からだったはずだ。中間は五月末からじゃなかったか?」
「マジかよー……。勉強したくねぇよ俺」
「安心しろ。朝霧以上の勉強嫌いがそこにいる」
ピッと指さした先には、難しい顔をした春がいた。一瞬の間を置き、驚いた顔をする。突然のことで反応しきれなかったようで、慌てふためいていた。
「え、何?何!?」
まるで悪者扱いでもするような指の差し方に、またも動揺する様子。二人を高速で交互に三度ほど往復し、まるでガラス玉のような目を走らせる。
「私、何か悪いことした?隕石でも落としちゃった??」
「隕石!?良いねそれ!!」
「落としてたら今頃私たちはこの世にいないから大丈夫だ」
そんなもの地球に落とせるのは神か大魔王くらいだ。ただのボケなのか、それとも素なのか。ただ一つ言えることは、皆隕石が好きだということだけだろう。
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