◇第十四話◇
LHR。予定の確認という事で、生徒たちは皆鞄からメモ帳を取り出す。
「明日はあれだ、面談だ。二者面談」
二者面談、とはご存知の通り、生徒と教師が一対一で話し合う面談の事である。主に、これからの学校生活での不安や不満を教師に相談する場として使われる。
「明後日は部活紹介で、その次の日に健康診断。献血するから注射嫌いな奴は覚悟しておけよ」
ブーブーとクレームが殺到する。高校生にもなって、注射が苦手とは……と言いたいところだが、大人でも苦手な人はいるものだ。その中でも、針を体に刺すこと自体が信じられないと言う者はかなり多く存在する。飛行機のような鉄の塊が空を飛ぶなんて信じられない、という事と考え方は似通っている。
「健康診断の次の日から授業開始ね。今から授業日程配るから。後ドアの所にも貼っておくから見て」
配られた授業日程に目を通し、科目を確認する。当たり前だが、中学の頃には見た事も聞いた事も無い科目がいくつか見受けられた。コミュニティ英語Ⅰ、略称はコミ英。そんな物は中学には存在していなかった。他にも、名前の意味自体は分かるが、中学の頃には無かった科目。例えば生物、数学I、国語総合等が挙げられる。
その後、校外学習やそれに向けての班分けをする日程、授業開始の日にち等々を軽くまとめあげ、発表する。
「質問ある奴いないな。よし終わろう終わろう」
全く質問が出来る余裕なんて無く、授業は強制的に終えられた。この日のLHRは普段帰りに行われるSHRを合体させられたものだったため、三組の生徒は一斉に帰り始める。
待たされる事があまり好きではない稜だったが、案の定蓮のクラスは授業中であった。その為、仕方なしに教室で待つことにする。
「雨夜、帰らないのか?」
とても素朴な疑問。その声の主は、驚く事に……いや、もう予想はついてしまう人物であった。薫以外にいるだろうか。
名指しされているにも関わらず、未だに話すら聞こうとしない稜に、薫は声をかけ続けた。
「なぁ、そろそろ一言くらい喋ってくれても良いんだぞ?あでもいでも好きな言葉を選んでくれ」
まだ学校が始まってから間もないとはいえ、一言も言葉を交わしてくれないというものは意外と寂しいものである。目を合わせるため、薫は稜の机の前にしゃがんだ。
「朝霧とかいう、四組の奴待っているのか?私も春を待っているんだ。どうだ、四人で帰らないか?」
普通の男子生徒なら、異性に此処まで言われたら断る道理は無い。二つ返事でオッケーするのが健全な男の子というものだ。が、やはり稜からは何一つ答えが返って来ない。本当に生きているのだろうかと心配になる薫だったが、勿論心臓は動いている。人間嫌いも此処まで来ると、どうやって今までの人生を生き抜いてきたのかと気になってしまう。
「何も言わないという事は良いという事だな。よし、親睦会でも開こうではないか」
目の前の人物の類い稀なる発想力に、稜の周りの時は止まる。ポジティブ思考にも程があるだろう。
こういうのをなんと言ったか……確か“天然バカ”と言ったな。と、稜は一人納得する。
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