◇第十三話◇
スムーズに、とは行かず、あれやこれやと言い争いながらもなんとか委員会決めが終えられ、授業終了のチャイムが校内に鳴り響く。
「はーい、じゃあ早速。号令係お願いね」
この学校の委員会が求めている生徒は少々少ない。が、かと言って何の委員にも入らないというのも不公平だということで、委員会に入らなかった生徒はクラス内の係として就任する事になる。そして号令係とは、クラス内の係の一つだ。
この授業を終えるための挨拶をし、皆バラバラに動き始める。次の授業はLHR。主にこれからの学校の予定の確認を行うそうで。といっても、一ヶ月や二ヶ月後のような離れた期間ではなく、一週間や二週間といった現在から近い日程を確認するだけだ。
たったの五分休憩にする事など特に無い為、全く椅子から立ち上がる素振りすら無く、稜は頬杖を付きながら座り続ける。人と話す事が大嫌いな性格を持ってしまったこの男は、その大嫌いな事をしたくないが為に、出来るだけ目立たないようヒッソリと学校生活を過ごす事を望んでいた。の、だが。
「雨夜、昨日やっていた手品の番組見たか?あの手品の仕掛けって実はな」
この世の中が広いのか狭いのか、稜に興味を示してしまう人種が存在していたらしい。それがたまたま同じ教室にいたという事は、やはり世界は狭かったようだ。
無視しているというのに、至極どうでも良い事をずっと話し続けるこの人物の名は、梅宮 薫。そう、後ろの席の女子である。よくもまぁ会話の成立しないこの男を相手に、ここまで話題が続くものだと感心してしまう。最早会話ではなく独り言ではないだろうか。
「ってわけで、そうすればあの手品は成功するのだそうだ。大胆な手品に見えて、中身は意外と単純なんだな。そうだ、今度試しに簡単なやつを──」
以下省略。大抵の人間は無視していればいずれ離れて行く。その為、今までの経験を活かし……ているのかはさて置き、同様無視していたのだが、何となく稜は理解し始めた。何をって、それは決まっている。薫が理解不明の人間だという事だ。
元々人間の心は闇に覆われているため理解しようという方が無理な話だが、薫はまた別だ。こんな感覚前にも体験した事があると、稜は自身の記憶を辿る。
このとても頭に来る感覚。これはそう、確か小二の頃の。とまで来たところで、今現在も繋がりのある、あの存在自体がイライラ製造機とも呼べる奴の事だと思い至る。人物名は、朝霧 蓮だったか。確かそんな奴だったと苛立つ頭の中で稜は考えた。
「って事なんだが、雨夜はどう思う?新元号の事」
いつの間にか話題も変わっているし。自由人なところも似ているなんて、兄妹かもしくは姉弟なのではと眉を引くつかせながら男は思う。
「令和かー、令和なー。そもそも令和ってなんなんだろうな。平和?昭和?日本ってそんなに和みたいのかね。それとも洋より和食派だったのか?なぁ、雨夜」
そんな事俺が知るか、とでも言わんばかりの形相をしている稜。が、しかし、肝心の薫はその事に全く気付く素振りすら見せなかった。
「生活委員の方も、宜しくな。共にこの世界の乱れを直そう」
規模が大き過ぎる。一体この女は何を目指しているのだろうか。政治家か?きっと政治家の回し者だ。きっとそうに違いない。なるほど、納得。
そもそもの話、確かに生活委員は乱れを直すために存在する委員だが、この学校に生活委員なんて要らないのではないか。教師らの悪足掻きとしか思えないが。
結局、勝手に話し掛けて勝手に席に戻って行ってしまった。何がしたかったのだろうか。何も返事をしない人間相手に話すのなら、壁や筆箱のような無機物さんと会話してもさほど変わりはしなさそうだ。
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