◇第十二話◇
「次ね、副学級委員。誰か挙手〜」
副学級委員。学級委員ほど重いプレッシャーは掛けられていない役職ではあるものの、それでも自主的に手を挙げる者はいなかった。毎年副学級委員は不人気らしく、シンと静まり返った教室に段々と慣れてきている様子の誠。仕方なしに後回しにしようとメモノートに目を移した時、「あの〜」と弱々しい中性的な声が教室に響いた。
「えっと、誰もいないなら僕やってみたいです」
茶色の髪の男子生徒。声だけでなく、顔までも中性的で可愛らしかった。
「キミは……皐月くんか」
「皐月林です、林!!」
「あー、
今まで何度も間違えてこられたのだろう。ほとんど条件反射で名前を訂正していた。皐月でも良いのではないかというクラスメイトたちの心の声が一致したという事は、此処だけの秘密である。
「じゃあ副学級委員は皐月くんで」
「だからですね……」
全く覚えようとしない担任に対し再度訂正を加えようと身を乗り出しかけた奏だったが、これ以上自分の名前の事で抗議しても他の生徒の迷惑になるだけだと、仕方なく椅子に座る。
それから順々に委員会が決めていかれ、稜が唯一決めていた役職に辿り着いた。
「次はっと。えー、生活委員やりたい人ー」
何の得があるのか、そもそも何をする仕事なのか分からない生徒たちは勿論手を挙げない。が、稜の通っていた中学校ではたまたま生活委員というものが存在しており、そこに主属していた蓮から全く仕事が無かったと嬉しそうに話されていた事を思い出し、第一候補に入れたらしい。
「他いないなら雨夜くんは決定ね。次体育委員〜」
分かってはいた事だが、やはり誰も手を挙げずスムーズに決定された事に内心少し喜んでいた。志望者が多い場合、公平を期すためジャンケンで決めるようにされていたようで、それだけは絶対に避けたいと考えていた。
次々と決められていき、最終的にジャンケンで負けた者と何にも手を挙げなかった者の数名が残った。
「一人一役職就くんだから、取り敢えず何かテキトーに選んどけって」
そんな投げやりな、と残された人たちは思ったが、まぁこの際仕方がないと諦めて就きたい役職を……いや、妥協して就いても何とかやっていけるであろう役職を探す。
「あ、じゃあ私は生活委員希望します」
そう言ったのは先日蓮に絡まれた生徒の友だち。梅宮 薫だった。
役職にもよるが、生活委員は男女各一名ずつ就くように決められていて、どちらにしろ相方は女子生徒しか務まらなかった。それをしっかりと確認していなかった稜は、珍しく誰が見ても分かるくらい怪訝そうな顔をする。
「梅宮さん。じゃあよろしく〜」
まるで「マジか」とでも言わんばかりに、眉を引くつかせる。しかし、恐らく生活委員はほとんど仕事の無い暇な役割。十中八九大丈夫だと信じたい稜は項垂れた。
「む。生活委員は雨夜か。よろしくな」
無表情ながらも目を輝かせながら、後ろの人物は稜に声を掛ける。案の定本人は答えることも無く、廊下を見ていた。それを気にする素振りもなく、薫は担任へ目を向けた。
暫く悩み続けた他の生徒は、結局担任によって半強制的に決められ、ブーブーと抗議する。
「煩いぞー、決定事項なんだからもう諦めなさいよ」
「えー……。俺無職希望なんスけど……」
「残念ながら選べないんだな〜」
ヘヘッとまるで馬鹿にするように生徒を見下す誠。その顔に腹を立て、無職希望の人物は頬を膨らましながら担任を睨む。
「そんな顔しても無理なの。暇で楽な仕事はもう取られてるの。我慢しなさい」
「先生が暇で楽とか言って良いんスかね…」
「先生は神様だから、何言っても大丈夫」
「馬鹿なんスか」
まるで小学生のような言い訳を並べ、男子生徒は半ば呆れ気味に溜息を吐き出す。聞き耳を立てていた、というわけでは無いが、聞こえてきた会話に稜は心の中で同感した。勿論、生徒の方に。
いや、恐らく稜だけではない。委員会に入りたいかどうかと聞かれたら、十中八九この学校だけでなく、日本中の生徒は「入りたくない」と口を揃えて言うはずだ。無職希望の生徒なんて腐るほどいる。それは会社員でも言えることだ。将来の夢は立派な無職になる事、なんて公言する学生はざらにいるだろう。
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