◇第十一話◇
朝のHR。眠そうに欠伸をする誠に釣られ、何人かの生徒も大きな欠伸をした。
「昨日も言った通り、今日はえーっとね……。何だっけ」
「委員会決めと係決めですよ、先生」
「あー、そうだそうだ」
自分が言ったことを一ミリも覚えてないとは何事か。よくまぁこんな人間が高校教師になれたものだと、呆れを通り越して賞賛してしまう。青京学園でなければ、今頃確実に職に就けていないだろう。
「一限目からやるからね。生徒会以外どれもこれも楽だから何も考えずに選んで」
嘘臭い。確かに生徒会は一番ハードでキツい仕事ではある。現に生徒会は希望者のみが入れる、特殊な組織。一クラスに一人は絶対入れ等という決まりもないため、基本生徒会は人数が少ない。
一応書類も有るらしいが、先に希望者の確認をしたいと委員会決めと一緒に、生徒会希望者の人数確認もされるようになった。
「取り敢えず、号令して終わろ。黒板に委員会と係書いとくから、休み時間中に決めといて」
他のクラスより遥かに早くHRが終えられ、言われた通り黒板に沢山の委員会名と係名が書かれた。
どれもこれも名前からして面倒臭そうで、出来るだけ仕事の無い楽な委員会を選ぼうと稜は考える。
パッと見、保健委員が一番楽そうだとは思えるが、意外と仕事量は多かったはずだと中学時代を思い出す。
本が好きな稜は図書委員が天職なのではないかと思われそうだが、それは違っていた。本を読む事は好きだが、確実に接客をする事になる。それだけは絶対に嫌だと、これも却下。
色々考えた結果、中学の頃と当てはめて見てみると、一つだけ全く仕事の無い委員会を見付けることが出来た。それは──
と、消去法を活用してほとんどの候補を消していったところで担任が戻って来たため、黒板から誠へ視線を移す。
「皆決まったかー。決まってなくても始めるぞー」
有無を言わさずすぐさま授業を開始する。自由気ままに休み時間を味わっていた生徒は勿論、途轍も無く暇な……そう、例えば稜のような奴でない限り、黒板の文字を見て役割を決定しようとする生徒は中々存在しない。
それを完全に理解している誠は、それでもほんの少人数だけは考えてくれると信じて先程のような事を言っていたのだ。
このような面倒事を長時間行う事は誠にとって、いや生徒にとっても苦痛でしかないのだから仕方ない。
加えて言えば、別に誠が生徒の為に少しでも短い時間で役割を決定させようと気を使っていたわけではない。
「んーと?学級委員?志望する奴いるかー」
何故“学級委員”の後にハテナが付けられたのか甚だ疑問ではあるが、これほどまでプレッシャーの掛かる役割を自分から請け負う人間は中々いない。酷い場合、一人も手を挙げず、結果強制的に決められたり……等ということも別段珍しくはないだろう。
だが、そんな最悪を予測して「誰でも良いから手を挙げてくれ」と切に願っていた生徒たちの願いは叶えられ、一人の女子生徒が挙手をした。瞬間、皆その生徒へ驚きと感謝の両方の意が込められた視線を移した。
「あー、水嶋さん。じゃあ宜しくね」
水嶋 雪。つい先日も質問という事で手を挙げた女子生徒。入学したばかりでまだお互いの事をしっかりと知り得ていないこの状況で、雪ほど頼もしい人間が学級委員を務めてくれるなら安心だと、皆安堵のため息を吐き出した。
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