◇第十話◇
それでも稜は、学内で蓮の次、つまり二番目に運動神経は良かった。ただ、蓮は体を動かす事がとても好きで、小学校に入る前からよく走り回っていたようだが、稜は違った。体育の授業ですら、本当はサボりを決めて寝ていたいようで、怠そうな目をして仕方無しにいつもは授業を受けていた。それもこれも、全て単位のためなのだが。
「良い時間だし、そんなに暇なら教室に戻ったらどうなんだ」
「今戻っても暇なのは変わらねぇって」
そういう問題なのだろうか、と言いそうになったところを踏み止まる。どちらにしろ、暇な時間が減るわけでも無いので、蓮の言い分も否定出来ないのである。それに今いる場所は三組と四組の教室の前。つまり二人の教室の前なため、担任が戻ってくれば即座に気付く事が出来るわけだ。
稜は小説という名の友だちがいるため時間潰しなんて簡単に出来るのだが、蓮にはそれが無い。最高級に暇な時に行うらしい脳内カードゲームなる物もある事にはあるらしいのだが、途轍も無くつまらないらしく滅多にやる事がないとの事で。
「こんなんで青春なんて出来るのかよ〜……」
「青春ってお前、そんなのアニメの世界だけの話だろ」
「いいや!!現実世界にも有るはずなんだ!!青春!!」
「うるせぇ……」
ギャーギャーと青春について語り始める隣の人間を無視し、横切る生徒に目を向ける。青い髪、赤い髪。茶色にオレンジに挙句の果て二色以上の色が入っている者もいる。ピアスだらけでヤンキーのような風貌。柄入りのマニキュアや派手なメイクで着飾られた、所謂ギャルと呼ばれる生き物。本当に何でも有りな学校なんだな、と再確認される。
「って、聞いてる!?」
ペラペラと一人で止まることなく喋り続けていた男は、いきなり話題を止め突っ込んできた。聞いてるも何も、百分の一の内容すらも理解出来ていないし、何なら出だしから既に何を言っているのかも分からなければ聞くだけ無駄というものだ。青春へどれだけ執着しているのだろうか。ただしこの男、蓮の言う“青春”とは、恋愛的な意味では無くただ単純に友だちとワイワイ楽しんで、夕日に向かって走りたいという意味になる。
「良いよなぁ……。俺も赤ジャージ着た極道の女教師と一緒に、夕日に向かってダッシュしてぇよ……」
「やっぱりアニメの話じゃねぇか」
「違います、俺が見たのはドラマの方です」
「どちらにしろ同じだろうが」
某極道教師の話について話している中で、キーンコーンカーンコーン、という授業開始のチャイムが学内に響き渡った。しかし、誰一人として慌てて教室に戻る生徒は居なく、皆ダラダラと歩きながら自分の教室へと帰って行く。稜と蓮も例外ではなく、担任が教員室から教室へ向かってくるのを見計らい、自分も教室に入っていく。
稜は廊下側一番前の席に座り、生徒たちが全員席に着くまでただジッと暇そうに待つ。
「はいはーい、さっさと座る。早く帰りたいなら協力しなさーい」
誠の言葉に流され、面倒臭そうに席に着く生徒たち。様々な人間がいる中、唯一皆の考えが一致した瞬間である。
「一時間で回りきれるほど此処の校舎は小さくないけど、まぁ少しくらいは勉強になったでしょ」
その与えられた一時間を無駄に使った生徒がいることを重々承知しておきながらも、その事について突っ込むことは無かった。
「で、明日の連絡ね。残念ながら皆の大好きな授業はまだ無いよ。委員会と係決めします」
授業無しという事と今日よりは早く帰れるという理由で、生徒たちは喜ぶ。
他に連絡事項は無かったらしく、それだけでHRは終えられた。他所のクラスは比較的まともな先生が揃えられているのか、委員会の事や係の事を分りやすく少しだけ解説して貰えているようだ。
出来る限り手短に解放して貰えるのは有難いが、もう少しくらい詳細が欲しかったと稜だけでなく他の生徒も思っていたりする事は此処だけの秘密である。
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