◇第五話◇

十分ほどで北校舎の見学も終わり、西校舎にご到着。稜と同じ事を考えていたのだろうか、廊下で暇を潰している生徒がちらほら見受けられた。


「さすがに北校舎と違ってまぁまぁ広いな。移動教室の時は此処に来れば基本大丈夫なんだと。担任が言ってた」


西校舎には美術室や音楽室など、様々な特別教室が置かれている。広大なこの敷地内で迷子にならないようにと、創立者のせめてもの気遣いなのだろう。生徒どころか教師ですら教室に辿り着けないのは学校最大の大問題になり得てしまう。


「軽く三階まで見てから次行くぞ」


「段々面倒になってきてんだろ、お前」


「何言ってんだ。俺は最初から面倒だと言ってただろ」


そうでした、と言わんばかりに苦笑いを浮かべる蓮。それでも一緒に回ってくれるのだから、これも稜なりの優しさなのだろうと納得する。


暫く二階で留まり休憩をしていると、突然何やら生徒たちがザワつき始めた。何事かと思った稜と蓮の二人は、人集りが出来始めていた方へ視線を向ける。


「ん?アイツは……」


見覚えがあるのか、蓮がぴょこんとアホ毛を立て言う。視線を集めていたのは、癖毛で桃色の長い髪をした可愛らしい女子生徒だった。


「知ってる奴か」


「というか、同じクラスの奴だよ。確か名前は──」


記憶を辿り、自己紹介の時に聞いた名前を思い出そうとした時。


「春、四組はどうだ?不満があれば言えよ」


一緒にいたもう一人の女子生徒が蓮の代わりに名前を言う。紫がかったストレートヘアで、可愛いというよりは美人寄りと言える顔立ちをしていた。


「あぁ、そうだそうだ。月野春つきの はるだ。周りが一気にザワついたから覚えてる」


隣にいた蓮がフルネームを教える。ファンクラブが出来る勢いで、主に男子生徒が春の周りに集まる。が、稜は興味無さげに窓の外にいた鳥を見た。


「私の事より、薫はどうなの?友だちの一人くらい出来た?」


「あぁ、まぁ一応な。話せる奴は出来たぞ」


友人同士というより、親子のような雰囲気を纏う二人に、何やら面白そうな笑みを見せ、蓮は二人に絡みに行く。


「君、月野だっけ?」


いきなり声を掛けられてしまえば、誰だって驚くだろう。二人も例外ではなく、特に薫と呼ばれた女子生徒が身構える。


「あ、もしかして……えっと、朝霧……くん?」


思い出したらしく、手探りで名前を当てにいく。


「春の知り合いか?」


「うん、同じクラスの人だよ」


蓮が四組の生徒だと知り身構えた身体を元に戻すが、依然警戒は解かれなかった。


梅宮薫うめみや かおりだ。よろしく頼む」


そんな台詞とは裏腹に、顔は全くよろしくしていなかった。寧ろ何故此処まで警戒されるのかと疑問に思うレベルだ。


「朝霧蓮、よろしくな。んで、あっちで窓の外眺めてるのが、幼馴染みの雨夜稜な」


突然自分の名前を呼ばれ、条件反射で蓮の方を見る稜。すると、これまた不意に薫が反応した。


「雨夜稜……。三組のか?」


「そうそう。何?稜の知り合いなの??珍しい事も有るもんだな」


滅多に人と話さない稜に知り合いが、しかも異性になんて有り得ない事だと思っていた蓮は、少しばかり嬉しそうな顔をする。

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