◇第三話◇

翌日。予告されていた通り、テストは実施された。テスト内容はそれほど難しくはなく、かといって簡単というわけでもなかった。解ける生徒は手を止めることがほとんど無く、淡々と解き続ける。逆に、筆の動かない生徒も何人かいた。恐らく一問解くだけでも一苦労しているのだろう。


稜は頭もそれほど悪くなく、ついでに運動神経も平均以上。苦手な事はほとんど無いが、得意な事もほとんど無い器用貧乏だった。そのため、問題に躓く事もあまり無くスラスラと問題を解く。たまに引っかかる所もあるようだが、何より時間制限を気にしてか、分からない問題は後回しにして出来るだけ多く穴を埋める。


テストは五十分間。国語、数学、理科、社会。プラスして英語の五科目だ。このテストは一年生のみで行われている。二、三年生はこの日休みなため、廊下には静寂が広がっていた。


四科目を既に終え、残った英語の問題を解く生徒たち。カリカリという小さな音がそこら中から聞こえ、何とも言えない緊張感を感じられた。


「終了五分前ねー」


今日も今日とてやる気の無い誠の声が残り時間を知らせる。まだ余裕があると踏んでいた生徒は一気に焦り始め、筆を動かす手が早まった。


しかし、この時点で稜は全ての問題を解き終わっており、眠たそうに廊下の外を見つめていたのだった。見直しをする、という行為も元々滅多にしないのだが、その上このテストは成績に入らないと知らされていたお陰で、穴埋めが終わった瞬間から稜にとってのテストは終了を迎えていた。


「はい終了。手止めて下さいな」


このクラスには比較的まともな生徒が集まっているのだろう、誠の言う事を素直に守り書く手を止める。


「後ろから解答用紙集めてー」


指示通りに後ろから用紙を集め、廊下側の席から順に担任へと渡す。


「この後一時間ほど自由時間になります。その間はまぁ、皆さん自由に学校探検なりなんなりどうぞ」


ただし、ちゃんと一時間後には教室に戻ってくるようにと一言添え、五限目は終了した。


やる事も無しでただただ暇だったためか、稜は廊下に出る。同じような事を考えている人が稜の他にもいたようで、元々知り合いだったのか将又気があったからか二人一組でいるところが多かった。


「おっ、暇そうな顔してんなぁ」


何も考えず窓の外を眺めていた稜へ、不意に背後から声を掛けた人物。朝霧 蓮だった。


「現に暇なんだよ」


「ま、教室にいてもやる事ねぇしな」


ケラケラと何が面白いのか問いたくなるような笑い方をする蓮に、毎度の事だと半ば呆れ気味にそっぽを向く。


「次お前らも自由時間だろ?一緒に回ろうぜ」


「アトラクションか何かか?面倒臭ぇから適当な所で過ごすつもりだったんだが」


「そう言うなって。この学校無駄に広いし、構造知っておいた方が後々楽だろ」


上手く言いくるめられ、断る気も起きなくなった稜は仕方無く了承する。実際校内で迷子になるなんて事が起きてしまえば、とても惨めな気持ちを抱えたまま学校生活を送る羽目になるのも事実。結果、蓮の言い分もあながち間違ってはいないわけである。

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