紙とペンと私たち

水谷一志

第1話 紙とペンと私たち

 一 

 さて、私たちは誰でしょう?


 …私は今日も夜、働いている。もちろん私の相棒も一緒だ。

 …しかし、こんな夜まで働かされるなんて、一般的にはここは「ブラック」になるのだろう。でも私は辛くない。何せこれは私の好きな仕事なのだから。

 「今日も差し入れ持ってきました!」

そうやって新人の職員が持ってきたのは、何の変哲もないカップラーメン。そしておにぎり。他の職員たちは、

「おっ、気が利くねえ!」

と言ってそれらを食べているが、もちろんと言っていいのか悪いのか、私と相棒はそれを口にはしない。

 …そういえば私より後から入ってきた奴らで、私と同じ仕事の奴らは見た目が派手になっているような気がする。もちろん、ある程度の範囲内ではあるが。…まあ後輩のことをグチグチ言うのは止めにしよう。


 二

 ところで、最近私のようなベテランを悩ませている、ある問題がある。それは、「コンピューターの進化」だ。

 これは私の仕事に限らずどの業種にも言えることかもしれないが、コンピューターの進化により業務はかなり効率化されている。それはとてもいいことだ。ただ…、ある程度昔からそれなりに活躍をしてきた私にとって、それは一抹の寂しさを覚えるものでもある。

 またこういったことを「デジタル・ディバイド」と呼ぶのだろうか?コンピューターの進化によって私のできること、働ける場所が減っていると感じるのは、気のせいだろうか?


 三

 次に私の仕事に対するやりがいについて述べておこう。私がやりがいを感じる時は、第一に「人の役に立っている。」と感じる時だ。私の仕事は例えばレストラン勤務のように直接お客様の顔を見るわけではない。しかし私たちの作った物は確実に人の役に立っている。私はそれを確信している。

 第二のやりがいは、「新しいことをいち早く知ることができる。」ということだ。そう、私たちは「新しいこと」が生まれる現場にいつも居合わせる。それは私たちの仕事にとって大きなやりがいである。


 四 

 そんな私には危惧することがある。それは若者の「活字離れ」だ。今の若者は活字など「文字による表現」から遠のいている…そう感じるのは私だけだろうか?

 ただそんな若者たちも、渋々ではあるかもしれないが私たちの仕事に触れる機会はあるようだ。どうやら、例えば学生の場合宿題に使われることもあるらしい。


 五

 おっとここで緊急事態が発生した。これからいわゆる「外回り」だ。

 そう、私たちはいつも「ニュース」の現場に居合わせる。そして、私たちは仲間と一緒に全力で「スクープ」を取りにいくのだ。


 六 

ところで、私の正体は分かりましたか?

何々?「新聞記者」?

 …惜しい!

 正解は、私は「新聞記者に使われているペン」であります!

 ただベテランのペンの私は最近流行りの派手なカラフルペンではありません。

 そしてそんな私の相棒は、「紙」です!

 そして私たちの新聞社には、私以外にも多くの「紙とペン」が置かれている。


 「紙とペンと私たち。」

「紙とペンと『紙とペン。』」

「紙とペンと紙とペンと紙とペンと紙とペンと……………。」  (終)

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紙とペンと私たち 水谷一志 @baker_km

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