ペンは剣よりも強いけど

くにすらのに

ペンは剣よりも強いけど

 ペンは剣よりも強し

 本当にその通りだと思う。

 就職できず、持て余した時間でフリー記者を自称して活動をして実感した。

 俺の取材方法はアナログだ。

 自分の足で現場に赴き、写真を撮ってメモを取る。

 動画すらうまいこと修正できる時代、案外その場のメモが重要な材料になったりする。

 俺は数々の不正や悪事を暴いてきた。

 腕力も権力もないけど正義を行使できる。それが記者だと信じて疑わなかった。


 ある日、俺の周りから紙がなくなった。

 仕事道具のメモ帳だけじゃない。プリンター用の印刷用紙やティッシュ、チケット類に至るまで全てだ。

 ほっぺをつねっても状況は変わらない。つまり夢ではない。

 これではペンがあっても記録を残すことができない。記者として致命的だ。

 だが俺はそう簡単に諦めない。

 自分の足で真実を探すのが記者の性ってやつだ。


 ない! ない! ない!

 とにかく紙がない。

 紙がないことがさも当然のようにみんな生活している。

 コンビニには紙パック飲料も売っていない。雑誌もだ。

 だけどペンは売っている。一体何に使えと言うのか。

 試しに缶コーヒーを買ったがレシートは貰えなかった。

 一息付いたら便意を催した。

 さっき買い物もしたしトイレを借りよう。

 こんな時でも生理現象は起きるんだな。いい経験ができた。

 ……あっ!

 紙がない! 紙切れではなく、トイレットペーパーを設置するものが一切ない。

 俺以外の人達は一体どうしているんだ。

 幸いにもここはコンビニのトイレ。叫べば誰か来てくれるだろう。

 だがその後どうする?

 「う〇こしました。次はどうすればいいですか?」

 なんていい年した大人が聞いたら通報されるかもしれない。

 考えろ。時間ならある。

 まず可能性として挙げられるのは手だ。

 手で拭いて、よーーーく洗えば……これは最終手段にしよう。

 そもそも俺のケツは今どうなっているんだ。

 スポンと出たから全く汚れていない可能性すらある。

 だが後で臭いだしても困るのでしっかりと処理しよう。

 はっ! 紙はなくても水は流れる。

 うまい具合に便器にケツをハメて水を流せばしっかり洗えるんじゃ……いや、濡れたケツはどうする?

 やはり紙だ! 紙がほしい! どんなに強いペンも紙がなければ何もできない。

 神様、いや、紙様! どうか俺に慈悲をお与えください!

 もう他人のプライバシーを侵害するようなマネはしません。

 自分のペンが最強だなんて驕りも捨てます。

 紙があってこそのペンです。


 ――ポトッ


 物音がした方に視線を移すと1ロールのトイレットペーパーが転がっていた。

 紙様!!!

 ケツを拭いて扉を開けると、そこには雑誌を手にレジを待つ人の姿があった。

 ああ、紙があるって素晴らしい。

 紙がなければ記録を残せないし、何かを拭きとることもでない。

 ペンと紙は剣よりも強し!

 うん、この組み合わせが最強だ。

 

 このことに気付いた時、目の前にはいかにも神様って感じのじいさんが居た。

 ああ、そうだ。思い出した。

 突然刺されたんだよ。

 さすがに剣じゃないけど、刃物ってやっぱ強いわ。

 こういう仕事をしてきた報いってやつか。

 まあ仕方ない。俺のペンは紙がないと何もできないし、俺自身は剣に弱かった。

 結局はジャンケンみたいなものだったんだ。

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