四章 10 『真っ白な異世界?』

 四章 10 『真っ白な異世界?』




 ーー白。


 その世界は明るく眩しい。

 完璧までな真っ白で始まりーー少しするとそれは光などではなく、白い壁なのだと理解する。

 そしてオレは


「ーーうおっ!」


 足が床に着いた感覚に、少しビックリした。

 地面らしい白の床にフワッと降り立つ。

 どうやら少し上から、降ってくるような形で転移したようだ。

 見上げた頭上は白いには白いが、靄がかかっていた。


 降り立った場所から辺りを見回し、見えたのは相変わらずの辺り一面の白ーーい部屋なのだろうか? と思われる場所にオレは突っ立っていた。


「ここが異世界……?」


 なぜ部屋なのか、と思ったかというと


「……扉?」


 目の前、五メートルぐらい先に茶色い扉が一つ、あったからだ。

 その扉によってオレはとっさに「ここは部屋だ」と判断した。

 しかしあまりに白く部屋の形を、把握するのは困難だった。


「……で、ここからオレにどうしろと」


 またしても思った事を口に出す。

 どうやらオレは、とっさに思った強い感想を口に出しているようだ。なんとなくだが、自分が分かってきた。


 ーーで、目の前にある扉。あれが気になる。

 オレの心の声は開けてみたい、という好奇心で溢れていた。

 が、ほんの少しの自制心……いや、これは不安に近いだろうか。その思いにより開けずにいた。


「ん〜、とりあえずみんなを待ちますか」


 何とか開けたい、という気持ちを抑え言葉にした結論に行き着く。


 ーーにしても誰も来ない。

 まだ一分と経っていないだろうが、この時間を長く感じている自分がいる。

 歩くという事をせずに降り立ったその場所で扉を見つめ棒立ち。


「ふわぁーー」


 朝が早かったので少し残っている眠気からか欠伸が出る。


「ーーあっ⁉︎」


「きゃ⁉︎」


 欠伸をし終え口を閉じる時に、「あ」という一文字を発した瞬間、「きゃ⁉︎」という声と共に、突如として上空から頭に強い衝撃を受け、その衝撃による勢いのまま、地面に倒れこんでいた。


「ーー痛ったぁ……」


 あまりに突然な出来事、突然な痛みになにがどうなっているのか分からず、声もあまり出ない。

 背中には重い何か、が乗っかっている。


「びっくりした……ってアレ⁉︎ 咲都⁉︎」


 頭上、正確に言うと背中の上から声が。昔から聞き慣れたこの良い声ーー晴香だ。


「……で、咲都は何してたの?」


 うつ伏せで倒れ込んだオレの背中に乗っかりながら晴香は質問をしてくる。


「いや、まずそこどけや。重たいわ」


「あ、ごめんごめん……って今重たいって言った?」


「ん? 言ったけどそれがどうかしたーー痛ったぁ!!」


 背中に乗ったままの晴香によるグーでのパンチ、拳骨がオレの後頭部へと直撃。めちゃくちゃ痛い。


「女の子に重たいって言葉は禁句でしょ! ほんとデリカシーがないわね。思った事をすぐ口に出すのいい加減やめなさいよ」


 純粋に怒られた。って言われてもしょうがなくないか? なにせ、


「……そんなに重たかった?」


「人間が自分の上に乗ってるなんて重たいに決まってるだろ。そういう意味で言ったんであってお前の体重が重たいとかいう意味で言ったんじゃねぇよ」


 そう、自分の上に人が乗ってるなんて、重たいに決まってる。


「そうなんだ。なら殴らなきゃよかった」


 ならせめて理由を聞け。そう激しく思った。

 第一、晴香が女として重たいとか知るはずもない。晴香の体重を知っているわけでもないし、女の子に乗っかられた事なんてあるはずない。

 ……なんか最後の方、自分で言ってて虚しいな。

 いや、瞳姉には海で乗られたな。確かあの時の感覚からいくとーー


「瞳姉の方が重たかったかな?」


「……なんで知ってるの?」


「いや海でまたがられた時にさ」


「そういうこと。……そうなんだ」


 ーーでもよくよく考えたら


「瞳姉の方が身長も高いし胸もあるしな……」


「ーー! あんたねぇ!」


 またいらない事を言ってしまった、と遅い後悔をした、と同時に腹に握られた拳が飛んでくる。

 本日、二度目になります腹パンを食らった。


「また鳩尾入ったって……」


 晴香のやつ最近物理攻撃が多すぎるぞ。まあ大体はオレのせいだが。


 腹の痛さに立ちながら背を丸めているとーー


「きゃ⁉︎」


 という声とともに、背中に衝撃が走る。

 なんというデジャヴ。

 この声は最近聞き慣れた良い声。華絵ちゃんだった。


「あっ、晴香ちゃん! 白い所だね……扉?」


 見た光景の感想をそのまま述べていた。オレの上で。

 てか華絵ちゃんも思った事を口に出すことが多いよな。やっぱりオレと近しい匂いがする。


「……華絵、下。踏んでるの」


「え? あっ、咲都くん! ごめんなさい!」


 華絵ちゃんが退いてくれたので、瞳姉が来る前にその場からずれる。

 もう痛い思いはこりごりだ。

 ……でも背中とはいえ、晴香と華絵ちゃんのお尻の感触は中々のものだった。ご馳走さまです!


 そしてすぐに瞳姉がやって来た。


「あれ? 皆さんお揃いで何してるの?」


「いや、何してるもなにも……オレら何にも聞いてないし」


「あぁ、ごめんごめん。先に言っときゃ良かったか。じゃあ私に着いてきて」


 言われるがまま瞳姉の後を三人で着いていく。


 まず瞳姉はオレが散々気になっていた扉を普通に開け中に入る。

 少し緊張しつつ続くとーーそこは先程より明るさが抑えられた白い部屋だった。

 しかし、先程の部屋とは明らかに違う。

 まず、部屋の奥行きは扉から三、四メートルといったところだろうか。横幅は二メートル程。突き当たりにまた扉、といった感じだった。

 部屋のちょうど真ん中辺りに、空港にあるようなアーチ状の、検査機が置いてあり左右には人。二人、人がいた。

 一人は黒いローブの様な物を羽織り、フードを被っているので、顔がよく伺えない。目に見えている体型から、女性だろうと判断する。

 もう一人は、少しガタイの良い男性だった。入って来たオレ達ーーいや、瞳姉を見ると、少し驚いた様な様子だった。


「あっ、瞳さん。お久しぶりです。……遂にアーウェルサに帰ってこられたんですか?」


 アーチの左にいた女性と思われる人が瞳姉に話しかける。

 被っていたフードを下げ、顔が露わに。よく日に焼けた様な色をしており、美しく整った顔立ちだった。


「お疲れ様。帰って来たって言っても一週間程だけだけどね。それとこの子達は三人ともあっちで見つけた新しい混血なの」


 瞳姉が「新しい混血」と言った瞬間、アーチ両隣の二人に驚きが走るのが見て取れた。

 そして、一気に視線はオレ達三人に集まる。


「流石瞳さんですね。三人も混血を見つけるなんて。言われてみれば見たことない方達ですね。てっきり支部の方かと思ってました。初めまして。私は魔法検査官をしていますシアと申します。よろしくお願いします」


「「「よろしくお願いします」」」


 シアと名乗った女性は、そう言ってオレ達に笑みを浮かべてくれた。

 オレ達もそれに緊張しつつも返す。

 魔法検査官って何だろう。そう思いシアさんの顔をパッと見ると、


「……どうしました? 私の顔何か着いてますか?」


「シアさんってもしかして……『エルフ』ですか?」


 シアさんの耳は少し尖っている。漫画やアニメで見るエルフ耳の様な感じで。

 そして答えはーー


「そうですよ」


 笑みでの肯定だった。

 スゲェ! エルフだ! っと叫びたいところではあるが、今の空気感がそれをさせてくれない。

 心の中の感動を押し殺し、小さな声で「おぉ」と言い喜びを噛みしめる。

 エルフに会うという夢、そしていて欲しいという願いがいきなり叶った。


「ーーで、そっちの人は新人さん?」


 瞳姉は視線を男性の方へ向けそう言った。すると、


「はい! お目にかかれて光栄です。魔法検査官護衛の任務に就いています。部隊『黒銀の剣』所属、加藤ガガンと申します。よろしくお願いします!」


 加藤ガガンと名乗った男性は先程よりより緊張した面持ちで瞳姉の前で頭を下げる。瞳姉ごときになんでだ? しかもお目にかかれて光栄だ、なんて。

 てか苗字めちゃくちゃ日本人だったんだが。


「私なんかにそこまで緊張しなくていいわよ。緊張ほぐす為に手合わせでもする?」


 笑みを浮かべた瞳姉の最後の一言に加藤さんは一層緊張ーーいや、少し恐怖を交えながら


「私などでは瞳様の足元にも及びませんので……。せっかくのお話ですがやめておきます。申し訳ございません」


「色んな人に言ってるけど様はやめてね。堅っ苦しいから。てか手加減ぐらいしてあげるわよ。それに緊張しすぎよ。リラックスリラックス」


 緊張の原因は理由こそ分からないが明らかに瞳姉だろ、とツッコミたくなる。


「っと、そういや咲都達の事忘れてた。シア、よろしく〜」


 瞳姉の一言に


「はい」


 とシアさんが答え、


「じゃあ皆さんお名前、生年月日をこちらの紙に書いて下さい。荷物はこちらへ。持ち込み不可な物がないかだけ調べますので」


 言われた通り荷物をシアさんの隣に置く。

 オレ達が紙に名前と生年月日を記入していると、シアさんはスクロールの様な物を空中のどこからか取り出し、オレ達三人の荷物の上に乗せていく。

 そして乗せられたスクロールにシアさんが手をかざしーー瞬間、スクロールが燃えて跡形もなくなる。


「うおっ!」


 少し強めの炎に思わず声が出てしまった。

 どうやら見ていたのはオレだけの様で晴香と華絵ちゃんはオレの反応に驚いていた。


「ごめんなさい。ビックリさせましたか? スクロール魔法を見るのは初めてですか?」


 シアさんはまたしても笑顔で問いかけてくる。


「いえいえ、オレが勝手にビックリしまだけですから。スクロール魔法ってのは今のですよね? 見るの初めてです」


「そうでしたか。スクロール魔法は物によって様々な魔法が封じ込まれてあり魔力を注入する事によって中の魔法が発動する、という物です。燃える様に見えますが実際には燃えていないので皆さんの荷物は焦げたりしませんので安心してください」


「へぇ〜。そんな便利な物があるんですね。説明まで丁寧にありがとうございます」


「いえいえ」


 異世界での新しい物に少し感動を覚えつつ紙へ記入を終えシアさんにそれを渡す。

 オレ達が紙に記入している間に瞳姉はアーチの先にある扉の前へと移動して加藤さんと何やら話して……ちょっかいをかけていた。


「虹夜咲都さんに天野晴香さん、荒川華絵さんですね。それじゃあお一人ずつ順にアーチの中心でお立ち下さい。誰からでも構いませんよ」


 とシアさんに言われ


「誰から行くよ?」


「咲都で」


「咲都くんからでいいよ!」


 二人からご指名頂きました。

 たまにはオレからじゃなくてもええんやで。


 オレは言われた通り、アーチの中心で立ち止まる。するとシアさんにそのままで、と指示され


「ではいきますよ!」


 手をアーチにかざしたシアさんの一言でアーチの周りに魔法陣が浮かび上がる。

 

 ーーそして体が光で包まれる。

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半端者達、現実世界と異世界をその手で救え! ~知らんけど~ 群青 黎明(ぐんじょう れいめい) @gunjo-reimei

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