四章 9 『まさかまさかのマンホール』
四章 9 『まさかまさかのマンホール』
送り火を見た日の夜、オレは明日の準備をせっせとしていた。
明日は、明日という日は遂に異世界『アーウェルサ』に行く日だ。
異なる世界と書いて異世界。オレは遂に明日、そこへ行く事になる。
異世界に関わって早約三ヶ月。既に一年の四分の一が経過していた。
最初はわけも分からず右腕を吹っ飛ばされ次の日には骨を折られ。ゲロをかけられたり。ついさっきに関しては右腕を焼かれた。
平和を欲しているオレの目の前に無理矢理現れた異世界への繋がりはいとも簡単にオレを平和から遠ざけた。
最初は無かった事にならないかと何度思ったことか。
しかし異世界に関わりをもち良かったことが無いわけではない。
まず一つ目はやはり魔法の存在がが大きい。
ラノベや漫画、アニメにゲームでしか使えない未知の力。その魔法が今やオレにも使えてしまう。
最初は魔法の現実での存在自体を否定していたがオレにも使えると分かった時はやはり心が少し舞い上がった。更にオレには少しばかり魔法の才能もあるらしい。これが嬉しく無いわけない。
もう一つ挙げるとしたら晴香や瞳姉、華絵ちゃんと普通とは違う関係を持てた事だろうか。
今までの様に普通の人生を送っていれば三人とは幼馴染、近所のお姉さん、友達止まりだっただろう。
オレはそれ以上の繋がりを持てていると思っているのでやはりこれも大きな要因になってくる。
そうこう色々考えているうちに荷造りを終える。荷造りと言っても着替えと歯ブラシに風呂道具などなどだけだ。
瞳姉に何を持っていけばいいか聞けば「ん〜、着替えあればいいんじゃない?」としか言われなかった。つくづく適当だ。
明日は晴香の家の前に朝の四時半集合になっている。
早すぎるだろうとツッコんだが瞳姉曰く理由があるとの事。こっちとしてはその理由を教えて欲しいところだが行ってからのお楽しみらしい。山の家での美山ちゃんイズムを少し感じた。
オレは集合場所が隣だからまだいいご華絵ちゃんなんてかなり朝早いだろうな。
現在の時刻は九時半を過ぎたところ。すぐに寝ても六時間半しか寝れねぇじゃねぇか。
今から風呂に入り布団に入ってもすぐに寝れる自信はてんでない。が、グダグタ考えていても仕方がないので風呂へ。
風呂を終え布団に入り寝転びながら異世界について少し妄想をしてみる。どうせ行くなら嫌だという思いで行くよりやっぱりいい思いで行きたい。
理想としては街並みはやはり、王道の中世ヨーロッパ風。美人のエルフや可愛いケモ耳少女、妖艶な魔女などとにかく綺麗や可愛い女性がいてほしい。瞳姉曰く向こうの世界にはオレ達と同じ様な混血や人間もいるらしい。
綺麗なお姉さん達に囲まれているのを想像しただけで……あ〜ヤベッ。
食べ物も美味しいといいなぁ。
異世界にどんな食べ物、野菜や動物がいるのかは聞いてないので分からない。が、異世界だけでしか食べられない美味しい物があるなら是非食べてみたいところだ。
ーー起きて! 起きなさいってば! さもないとあんなことやこんな事ーー
ピッ
目覚ましが鳴っていたのでかろうじて動いた手でなんとか止める。
妄想をしながら知らないうちに寝ていたようだ。
携帯電話の画面を薄ら目確認し目覚まし通りの時刻は四時。窓から見える闇はまだ日が昇っていない事を告げていた。
「んん……クッソ眠たいぃ」
小さく独り言を言いなんとか体を起こし布団から出る。
欠伸からの軽く伸びをして
「さぁて、起きるぞオレ」
全身を動かせるように言葉で気合を入れる。
いつもと同じくトイレ、歯磨きを済ませて朝ご飯をとっとと済ませる。少しでも寝る時間を稼ぐため朝は菓子パンを食べる。手抜きだ。
着替えながら携帯電話の画面を見ると晴香からなにか通知が来ていた。
ーーちゃんと起きてる?
という確認のメールだった。
ーーちゃんと起きましたよ。おっぱい。褒めて
と返しておいた。おっぱいは書きたかっただけ。たまにそういうのあるよね?
支度を済ませ玄関を出ると晴香がいた。
「おはようさん」
オレの挨拶に対し、
「おはよう変態さん」
と言いながら肩パンを一発入れられた。
「ちょい久々だけど痛え……」
「なによあのメールのおっぱいって。朝からなに考えてるの?」
「ん? なんて言った?」
「だから朝からなに考えてるの? って」
「いや、その前その前」
「え? あのメールのおっぱいって……もしかして私に言わせたいだけ?」
ヤベっ、バレた。
「な、何のことかなぁ〜。オレはただ聞こえなかっただけでぇ……」
「くたばれ!」
振りかぶられた晴香の拳はオレの鳩尾を見事に捉え命中。まさにクリティカルヒット。
「……痛ってぇ」
あまりの痛さ、苦しさに声が思うように出ない。
「今までに溜まってた分も込めておいたから。しばらく苦しみなさい。そして変態を悔い改めなさい」
そんな無茶な。男は皆この世に生まれた時から変態になるように設計されてるんだよ。治せなんてオレが女にならない限り無理な注文だ。
そして何故今溜まってた分を込めた。
オレが鈍痛にうずくまっていると
「晴香ちゃん、咲都くんおはよう! 今日から一週間楽しみだね! って咲都くんどうかしたの?」
このクソ朝早い時間でもやはり元気な華絵ちゃんがやって来た。心配してくれるなんて優しいですなぁ。
「今さっき天から変態咲都に裁きが下ったの」
「なるほど。大丈夫なの?」
なにが天からの裁きだ。晴香の右腕が腹パンしただけだろ。
でも晴香の苗字は天野なのである意味天からの裁きなのか? としょうもない事を思いついたオレ。
てかさらっとなるほどって言う華絵ちゃん。それってオレが変態だって事に納得してるってことだよな? いやまあ間違っちゃいないがなんか複雑な気分だ。
「お待たせ〜。揃ってるし早速行こうか」
まだ少し腹の痛みが残る中、瞳姉がやって来た。
「ん? 咲都お腹押さえてるけど具合でも悪いの?」
「……うん。だから行くの止めとこうかな」
「とか言ってまた晴香に一発入れられただけじゃないの?」
ピーンポーン、大正解。何故に分かるんだ。
「その通りよ瞳姉。ほら咲都、早く行くわよ」
「……へいへい」
ーーそして五秒後
「よし、到着〜」
「「「え?」」」
今到着と聞こえたような……きのせいか? いや、晴香と華絵ちゃんも呆気にとられた声を出していた。気のせいなんかではなかったようだ。
目的地まで実に五秒。オレ達はオレ、晴香宅目の前の道路にいるだけだった。
「到着ってここ? 何もねぇけど……」
「バカね咲都。下を見なさい下を」
瞳姉に言われるがまま足元に視線を下ろす。……バカは余計だバカは。
「いや、マンホールしか無いけど」
「そう。実はそのマンホールが入り口なんですね」
「えっ……開けて入るの? 私嫌なんだけど」
晴香の言葉通りオレも嫌だ。華絵ちゃんも露骨に嫌な顔をしている。
「違うわよ。このマンホールの上がアーウェルサへの入り口なの。意外だった?」
以外も何も想像もしてなかった。
オレはもっとこう普通の人には分からない秘密の場所からワープ、みたいなのを想像していた。
「でもこのマンホールの上からどうやって行くんですか?」
オレ達三人が三人とも思っていたであろうことを華絵ちゃんが言葉に。それにたいし、
「擬似空間を作ってワープって感じね。色々理由はあるけど早い時間の方が人いないしいいの。もちろん他の理由は行ってからのお楽しみだけど。普通の人には分からない秘密の空間からワープってところかしら。ロマンあるでしょ?」
と瞳姉。
擬似空間に入るとオレ達は普通の人の目から見るといきなり消えてしまう。なので人があまりいない時間の方がいいのか。
……オレの予想はまさかの形で若干の的中だった。
しかしロマンは流石に感じないな。よりにもよってマンホールの上なんて……。
「それじゃあ早速行くから。周りに人はいないわね?」
周りをくまなく確認する。
「オールクリア」
「いないわ」
「いませんね」
そうオレ、晴香、華絵ちゃんが言うと同時に瞳姉の作った擬似空間に入る。
「じゃあ今から行き方を説明するわね」
と言われたところで一つ疑問が生まれた。
「はーい、質問。こんなことしなくても瞳姉の世界転移魔法だっけ? で向こうに飛ばしてくれたらいいんじゃないの?」
「それだと何処に向こうの世界から来たヤツは同じ場所に返せるけどコッチから一方的に行く場合だと飛ぶか分からないしダメなのよ。マンホールからのワープならちゃんとセントラルの決められた地点に到着するの。それに世界転移魔法だと私の魔力の消費が激しいから疲れるじゃない」
ははーん、なるほどね。世界転移魔法にはそんな制限があるのか。
というわけらしいので瞳姉の説明を聞くことに。
「行き方は……マンホールの上で『開けゴマ!』って言うだけです」
「「「えっ?」」」
またしても瞳姉以外の三人が呆気にとられる。
いやいやいや……。そんなことある? 「開けゴマ!」で転移するなんて。一言で言うなら
「ーーダサッ」
あまりの衝撃に思わず声に出てしまう。
流石に瞳姉のおふざけだと思っていると、
「って言われてもねぇ。本当の事だしこればっかりはしょうがないわね」
と、即座に否定。事実だったらしい。
「そんなわけでトップバッターは文句を言った咲都です。晴香と華絵ちゃんもそれでいいわね?」
「はぁ⁉︎ 瞳姉が先に行くだろ普通」
「私は空間の維持があるから最後に行かなきゃだしね。と、いう事で行ってみよう!」
瞳姉に軽く押されマンホールの真上に立つ。
晴香も華絵ちゃんも見ているだけで変わってくれる気はないらしい。当たり前か。
「……なんて言うんだっけ?」
「『開けゴマ!』よ。はっきり発音しなさいよ」
つくづくダセェと思いつつも軽く息を吸い
「ーー開けゴマ!」
ーーセリフを言い終えた途端、目の前が真っ白に染まる。
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