第21話「三人三様」

「それでー? デートはどうだったんですかぁー?」

 中林さんと飲みに行った日の昼休み、増田が愉しげな顔をして堀合に訊く。


「うーん。まあ、悪くなかったかな」

「えぇーっ。じゃあ、楽しかったってことー? マジですかー? うっそー!」

 増田の奴は、どこまで俺をばかにしているのだろうか。

「ライブとかめったに行かないから新鮮だったし、会場もオシャレで雰囲気よかったよ」

 堀合は仕事中のような真面目な表情で、コンビニ弁当に意識を半分向けている。


「ってゆーかぁー、そんな場所にわざわざ誘ったってことは、やっぱりあの人、先輩のこと超好きってことですかー? うわーきもぉ」

 なぜ部外者の増田にそこまで言われなければならないのか、俺はさっぱりわからない。低レベルな女子大卒のくせしやがって。

「どうだろ……そういう感じでもなかったけど。一応、帰り際にまたご飯行こうって言われた」

 堀合が、やや決まり悪そうな顔をして話す。

「マジかぁー。私の堀合先輩をあんな男が狙ってるなんて最悪ぅー」

「一回きりのつもりではないみたいですね」

 お前はレズビアンかよ、というツッコミを投げかける代わりに冷ややかな視線を増田のほうへ送りつつ、田島がそれらしい推測をする。


「いやあ、勘弁して。そんなつもり全然ないから」

 半笑いで答えながら、間食した弁当の蓋を閉じる。

「話は弾んだんですか?」

 田島の質問に、二人が意外そうな顔を見せた。

「思ったより普通に話せたかな。笑顔も多かったし。もっとしんどいかと思ったけど、そんなでもなかった。まあ、後半はこっちから話題振らないといけないことが多かったけど、それもまあ予想の範囲内って感じ」

「大賀さんが笑顔で雑談するところって、あんまり想像できないですね。堀合さんとだからかも」

「なにそれマジー? いつも無愛想なくせして都合良すぎでしょー。ないわー」


「あれから連絡とかあったんですか?」

 俺と堀合という物珍しい組み合わせだからか、田島も案外感心を示しているようだった。

「ううん。連絡先は交換したけど、一度もやり取りしてない」

「その気ないなら交換すんなよって感じですよねー。ホント謎だわー」

 お前のそのテンションのほうがおおいに謎だよと、たぶんその場にいた社員みんなが思ったことだろう。


「堀合さんからは、連絡してみないんですか?」

「ちょっ、なんで私からしないといけないのさ! こっちは仕方なく付き合ってあげただけだっての。っていうか、その日のうちに今日はありがとうございましたとか、それぐらい送ってこれないの!? なによ、向こうから誘ってきたくせして」

 珍しく動揺しているのか、普段よりも早口で話している。


「送ってほしかったんですね」

「違うって、そんなんじゃないから! 早稲田出てるインテリのくせして、お礼のひとつも言えないとかおかしいでしょ!?」

「ホント、最悪ですよねー。やっぱコミュ障だわー。勉強しかできない陰気なヤツ」

 コミュ障というのはこの際否定はしないが、少なくとも俺は勉強のほかに、仕事も人並み以上にはできる。


「まあでも、チケット代も食事代も奢ってもらってるわけなので、先輩のほうからひと言送ってもよかったかもしれませんね」

「うっ、それは……。あぁもう、わかったって。送ればいいんでしょ、送れば!」

 堀合が、やや頬を紅潮させながら田島の正論に同意する。

 

 主観的な罵倒しかできない増田と、本心がどこにあるのか自分でもわからずに揺らぎまくっている様子の堀合と、どっちもどっちだなと肩をすくめ、田島は御不浄ごふじょうへ離脱した。 

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