第11話「答え合わせ」
『堀合 様
お疲れ様です。突然で恐縮ですが、今月三十日の勤務後はお時間ありますでしょうか?
その日の夜に古内東子という歌手のライブがあるのですが、一緒に行く予定だった友人の都合が悪くなったためにチケットが一枚余ってしまい、ご一緒して頂けたら幸いに思いました。
お忙しかったり、あるいは気が進まないようでしたら断って頂いて構いません。ご検討のほどよろしくお願いします。
因みにライブは二十時開場、二十一時開演で、およそ一時間半程度です。
会場は、東京駅から徒歩数分の場所にあるので行きやすいと思います。
十一月十二日 大賀』
こいつが、堀合のメールボックスに提出した答案用紙だ。
今回の画策にあたって、断られるかもしれないとか、もし断られたらどうしようかなどということはあまり考えなかった。
これまで、一度も女と付き合ったことのないやつがなぜにそうした懸念を抱かなかったのか奇妙にも思えるかもしれないが、俺はもともと自信家である。いざ何かをするとなれば、揺るぎない自信を胸に堂々たる態度で挑むだけだ。なんなら、成功した先のプランまで立てはじめようか。俺は、自分がそれだけの価値や能力を備えた男だと自負している。
ついでに言えば、女と交際経験がないだけで、普通にデートしたり遊んだりしたことは一度や二度じゃない。こちらから働きかけた場合、たいていは応じてくれたものだった。まあ、どれもこれも長続きすることはなかったが。
* *
翌日出社すると、俺のメールボックスに事務連絡票という堅苦しい名前の合否通知が一枚、クリアファイルに挟んで入っていた。予想どおりだ。
『三十日空いておりますので、ぜひよろしくお願いします。
十一月十三日 堀合』
彼女独特の丸っこく小さな文字で、合格の旨が記されていた。
業務外のやり取りにも関わらず、そのへんのメモ用紙などではなく事務連絡票を用いるあたりが堀合らしい。
俺は相好を崩し、脳内で
完璧な計画に基づいての行動だったのでただの答え合わせに過ぎず、当然の結果といえばそうなのだが、それでも率直に嬉しかった。堀合というそこそこのステータスと外見レベルの女に、男としての価値を見出だされたことが誇らしかった。女とデートをしたことなどここ数年なかったので、素直に心が躍動した。
見たか、コメダのラブラブカップルよ! 俺にだってその気になれば、これぐらい朝飯前なのだ。
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