第10話「計画的な男」
俺はガキの頃から勉強でも遊びでも、大概のことは計画的に行う
さすがに、いきなりなんの理由もなしにデートに誘うのは旗色が悪いので、なにか口実が必要だ。幸運にも、ちょうど良いそれがあった。
十一月末、都内で
世代的には俺より一回り上か、あるいはそれ以上の年齢層に認知されている歌手だった。俺は、でも彼女の大ファンである。おそらく、二十代のファンは一割いるかどうかでかなりレアだろう。三年ほど前から定期的にライブやイベントに足を運んでおり、昨年の夏にははるばる札幌まで行きディナーショーに参加した。
今回ももちろん参加予定で、チケットはインターネットで予約済みだ。堀合の分も、さっそく追加で確保した。この口実を利用すれば、突然の誘いという不自然さは緩和できよう。ちなみに、もしダメだった場合も席はキャンセル可能なので心配ない。数百円のキャンセル料で済むのであればローリスクハイリターンというものだ。
具体的には、だれか別の奴と行く予定だったがそいつの都合が悪くなり、不運にもチケットが一枚余ってしまったという設定だ。
懸念としては、他の社員ではなく堀合を誘ったことで俺が彼女のことを特別視しているなどという誤解を生まないかであるが、これについてもクリアしている。
ライブ当日、他に候補となり得る二名のうち、増田は有休を申請していた。なにがあるのか知らないが、結構前に申請していたから予定があるのだろう。田島は出勤日だが、よく考えれば確か田島には彼氏がいた。大学院――どこの大学で何を研究しているかは知らないが――に在学中の年上と付き合っているような話を、以前他の社員がしていた。だから、常識的に考えて避けることになる。
堀合は二年ほど前に彼氏と別れて以来フリーであることをよく愚痴っており、同じくフリーの俺が声をかけるのはなんら問題じゃあない。
残るはどのように切り出すかであるが、さすがに他の社員がいる前では決まり悪く、口頭で伝えるなら二人きりの環境が良いだろう。とはいえ狭いオフィスゆえに、そういうシチュエーションはあまり望めそうにない。しかし、これについても計算済みだ。
* *
月曜日。俺は堀合のデスク上のメールボックスに、彼女宛の書類を提出するふりをして一枚の用紙をクリアファイルに挟んで入れた。堀合は今日は有休を取っているので
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