第9話「消去法によるロックオン」

 先週の第二次コメダ事変――むろん、第一次はコンセントと格闘した日だ――に触発され、なにか突飛なアクションを起こさずにはいられない衝動に駆られた。

 

 異性との関わりがまったくと言っていいほどなかったここ数年、目を背け続けていたが、ここらで向き合わなければならない。我ながら短絡的な思考だが、二週連続で同じカップルのいちゃつきを見せられては仕方あるまい。俺とて、その気になればあそこまで親密ではなくとも、それなりに実のあるデートができることを証明してみたくなった。


 そうは言えども、今の俺の異性とのつながりといえば職場しかない。小規模な会社なので、従業員数はトータルで約三十人。男女比はおよそ半々だが既婚者が多く、独身で年齢的にちょうど良い女は三人といったところか。正直、三人ともこれまでに交流らしい交流はほとんどなく、仕事上で必要な会話以外は数えるほどしかかわした記憶がない。


 まず一人目。二十三歳の田島は、入社一年目の新人だ。

 サバサバした性格で物覚えも良く、俺ほどではないものの、仕事は効率良くてきぱきとこなしている。性格的には悪くないが、いかんせん太っており外見的にアウトゾーンだ。

 二人目。二十五歳の増田ますだは、確か入社三年目だったか。

 基本的に誰にでも馴れ馴れしく接する俺の一番嫌いなタイプの女だが、不思議なことに、俺に対しては入社当初からほとんど話しかけてくることはなかった。本能的にコイツは避けたほうがいいと感じたのか、あるいは他の社員から関わるべきじゃないと忠告されていたのか知らないが、賢明な判断と言えよう。外見だけみればアリなのだが、性格的な観点からアウトだ。


 そして三人目。二十七歳の堀合ほりあいは俺と同い年だが、入社七年目で職場では先輩に当たる。二年制の専門学校を出てすぐに就職したため、大学を出て入社した俺よりも二年長いわけだ。

 この女は性格がキツいことを自覚しており、他の社員もまた共通の認識だろう。

 キツいと言っても別に直接的にいじめたりののしったりするわけではなく、なんとなく雰囲気だったり口調だったりというものが他人から見るとそっけなく感じられてしまう傾向にあるということだ。これは半分は努力で改善できたとしても、もう半分は生来的なものだろうから多少気の毒だと思わなくもない。まあ、当人のいないところでそいつの噂話をしたり、仕事のミスをなじったりする性格のゆがみがもう何年も彼氏ができない原因なのかもしれないが、そんなことは俺にはどうでもいい。

 

 仕事に関してはいたって堅実かつ真面目で、新人の教育なども抜かりなく行っている。キツい性格のわりには周囲の社員たちとの関係もそれなりに良好らしく、特に増田などは堀合のことを惑溺わくできと言っていいほど気に入っており――別に同性愛とかそういう趣味はないんだろうが――、なにかにつけて絡んでみたり、あるいはプライベートでも遊びに行ったりしているらしい。


 この三人の中でいえば消去法で堀合しか残らないわけだが、実際彼女なら悪くないかと思った。

 例のキツめな性格は、俺も入社半年ほどでだいたい把握したので必要以上に関わらないコツを身につけていた。これまでに異性として意識したこともなかったが、改めてそういう視点でみればまあまあな女とも言えよう。やや肌が荒れているのが残念だが、顔立ちはそこそこ整っており、改めて見ると余裕でアリだ。コメダで見たカップルの片割れには劣るが、間違っても不細工の類ではない。仕事では多少融通が利かない場面はあるものの、真面目で熱心なところはそれなりに好感が持てる。


 そういうわけで、俺は堀合に照準を合わせることにした。

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