第7話「歌舞伎町一番街」
先週はどうでもいい会議で遅くなったが、今日は何事もなく上がれた。相変わらず、覚えの悪い後輩や必要以上に業務を抱え込む上司たちが終業ベルなど気にもとめずに作業をしているが、俺は背を向けて決まり文句だけ発し、ベルが鳴りやむまでにさっさとオフィスを後にする。自分の仕事さえ終わっていれば、少しばかり早く帰り支度をしていても咎められることはない。
いつものラーメン屋という気分でもなかったので、新宿で下車して東口付近をぶらつく。いつ来ても
まだ七時にもならないというのに、歌舞伎町一番街入口のアーチは赤々と光り散らしており、この時間からでも頭の悪そうな男や女たちが活発に客引きを試みている。今どきそんな簡単に引っかかるかよと思いながら少しばかり気を引き締めてアーチをくぐるも、イヤホンをしていたからか、もしくはこういう場所の従業員でさえも俺が結構な
とりあえず何か飲みたいと思っていたところ、
さすがは新宿歌舞伎町だ。他店舗と異なり、注文は備え付けのタッチパネルで行うスタイルで、いちいち店員を呼ぶ煩わしさがない。それを確認した上で俺は再度イヤホンを耳にはめ、激安のハイボールと餃子――こちらもかなり安く、六個で二百円だ――を頼む。
二十秒も経たないであろうスピードでハイボールが運ばれ、その数分後に餃子が届いた。皮の中身が少なく、値段相応のクオリティだ。しかし、酒はその辺の居酒屋と比べても遜色なく、ここは事前に食ってから飲むためだけに訪れるべき場所だなと肝に銘じる。この後、唐揚げやハーフサイズの麻婆豆腐も注文したが、やはり食い物はどれもこれもパッとしなかった。
食事を終えて店を出ると、いかにも
相変わらず、俺はそいつらに
自宅の最寄り駅に戻り、コメダまでの三分ほどの道のりを歩く。歌舞伎町の粗野な夜景と比べて、こちらはずいぶんと静穏な空気が流れている。先週と同じく、夜に包み込まれる安心感を享受した。飲むだけならどこの夜でもよいが、俺が好きなのはこういう思慮深さを纏った夜だ。センスのある奴らを取捨選択し、そいつらだけに心地よさを提供するような慎重な夜。俺は、だからその点では選ばれし者なのである。
百円ハイボールを五杯ほど飲んだからといってへべれけになるほど弱くはないが、それなりにふわついた脳に穏やかな夜気をするりと
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