第6話「サ店と間抜け面」

 ここ最近の習慣的な楽しみといえば、仕事終わりにサ店で音楽聴きながらうすらぼけっとすることぐらいのものだ。

 

 サ店は、個人でやっている純喫茶的なところもそれぞれに独特な時間が流れていて好きだが、最近はコメダとかベローチェとか、どうでもいいチェーンに落ち着いてしまっている現状にある。やはり気兼ねなく長居するにはチェーンのほうが良いし、小規模な個人店だと店主との距離が近かったりするので、なんとなくイヤホンを付けてシャットアウトすることに罪悪感に似た感情を覚えてしまうので、近ごろは足が遠のいている。それに、夜の十一時ぐらいまで開いている店となると自宅近くのコメダか、二駅離れた場所のルノアールぐらいのものだ。


 サ店という場所は――特に最近はチェーンを多用していて思うのだが――、誰もいない自宅で締まりなくだらけてくだらないバラエティ番組なぞ眺めているよりもずっと笑える。老若男女、多種多様な人間をその都度視覚と聴覚に放り込めるというのはなかなかに刺激的だ。

 いかにも金がなさそうな男子高校生とか、寒いのに太い脚見せる服着てキャピキャピやっている軽薄な女子大生グループとか、定年退職して他に行く場所がないから仕方なく来て夕刊開いている感じがありありとした冴えないじーさんとか、まあいろんな奴らがいるから見ていて飽きない。イヤホンを付けていたら視覚だけになってしまうが、気になったらわざわざ外してしまったりなんてこともある。

 

 そりゃあこの前みたく、想定外に見たくもないものを視界にぶち込んじまうこともあるが、それはそれとして文句を言いつつも、どこかで楽しんでいる自分がいることは否定できない。

 あと、店員を観察するのもわりと興味深い。このにーちゃんはあのにーちゃんと比べて注文のとり方が丁寧だなとか、あの学生バイトらしきねーちゃんは胸はあるけど首から上が残念だなとか、このオッサンいつもいるからおそらく社員なんだろうけど、これでもしバイトだったら哀れだよなとか、どうでもいいことをあれこれと想像しては楽しんだりストレスを被ったりしている。


 もとより人間嫌いとまではいかないものの、他人との関わりを積極的に望むわけでない俺がサ店でそんな風に人間観察なんてしちまうことを考えると、やっぱり寂しいんだろうな思う。

 器用貧乏ゆえに何でも適当にこなせてしまうが、それゆえに他人と余計なつながりや関わりを持たずにここまで生きてきた。でも、さすがにアラサーになってこのまま独りでいてもそれこそくだらねえよなと思い始めたは良いものの、なにか具体的な行動を起こすのも面倒に感じてしまい、結局サ店で間抜け面浮かべながら他人の暮らしぶりとかを想像することでなんとなく満足しているわけか。

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