第5話「貫く無関心」

 職場でも、俺の周囲に対する無関心ぶりは顕著だ。

 例によって、仕事も特別に精を出さずにそつなくこなす。事務作業が中心だがそこまで難解な内容ではなく、上司から何をやればよいか一度説明を受ければ、あとは自身のスキルをもとに進められる――少なくとも俺の場合は――仕事だった。

 俺が順調に業務を片付けていく横で、エクセルの基礎的な表計算やグラフ作成がままならずに悪戦苦闘している同僚がいたり、向かいに誤字だらけかつ文章の乱れた報告書を部長から返却されてうなだれながら修正作業をする後輩がいても、俺は歯牙しがにもかけない。俺という人間の存在を知って間もないころはそういう奴らからヘルプを求められることもあったが、「悪いが、他人の抱えている仕事の手助けをする義理も必要性もないから自分で何とかして欲しい」とけんもほろろに断ると、それ以降声をかけられることはなくなった。


 適当に就活して適当に入った企業なので、仕事には面白みもやりがいも感じず、そもそもこのレベルの仕事ならわざわざ俺がやらなくても良いんじゃねえのと恭謙きょうけんの欠片もないことを思っていたりすることは、職場の他の連中には口が裂けても言えやしない。まあ彼らも、俺が内心でそういう風に感じていることに気付いているのだろうが、気付いていながら具体的な文句一つ言わないあたり、案外人間ができているのかも知れないと思わなくもない。


 しかしどいつもこいつも、定時を過ぎてもだらだらパソコン作業をしていたり、自分の仕事は終わっているのに他人の業務に首を突っ込んだがために余計な係累けいるいに巻き込まれたり――先に挙げたような出来の悪い社員にも安易に手を差しのべたりするんだよな――、やっぱり日本人っていうのはくだらない国民性していやがるなと常日頃から感じざるを得ない。

 もちろん、俺は時間内に自分の仕事は全て終わらせるので、終業ベルが鳴ると同時に離脱する。この前の金曜日は部長がいきなりミーティングやるとかぬかしたので大嫌いな超過勤務をする羽目になったが、そのくらいは仕方あるまい。俺一人が定時で上がる時、さすがに「お先失礼します」ぐらいは無愛想ながら口にするが、誰かしら「お疲れ様でした」と返してくるあたり、職場環境的には良好なんだろうなと感じている。


 あっという間に社会人五年目となったが、こんなつまらなくてやりがいもない仕事を続けているのは、安定した銭が入るからという理由以外になにもない。他のほとんどのサラリーマンがそうなのだろうから、これについては何の独創性も付随しないもん切り型の発想であると言わざるを得ないところだ。学生の時に真面目に就活しておけば良かったと今さらほぞを噛むのは滑稽だが、そういう感情は日ごろ仕事をしていると頻繁に訪れる。


 大学を卒業して二、三年ぐらいは、まだ学生時代の友達と付き合いがあったりして休日やアフターファイブ――いや、俺の職場は午後六時が終業時刻なのでアフターシックスか――をそれなりに面白おかしく過ごしていた。男は、女と比べると比較的物事の本質を理解している傾向にあるので、俺のような性格でもそれなりに愉快な付き合いができた。最近はそれも途絶え、定時で上がっても毎日なにをするでもなく漫然と過ごしてしまう。実にくだらないが、それでも無意味に近い残業で時間をつぶすよりはましだ。出るかどうかもわからない残業代をあてにしなければならないほど、俺は生活に困っちゃいないしな。




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