第4話「大衆向けでない男」

 俺がこうもモテない理由は、はっきりいって外見的な問題ではないと思う。

 そんな風に言うといかにも不遜に聞こえるかも知れないが、別に器量が良いと言っているわけではない。特別良くはなく、例えばコメダで見たカップルの片割れと比べても、俺の容姿はいくぶん劣っていよう。

 

 しかしながら、他人を不快にするほど醜悪な面は持ち合わせていないつもりだ。ガキの頃は、近所のオバチャンどもからかっこいいなんて言われたことも一度や二度ではない。そんなものを真に受けるのはどうかしているという声が方々ほうぼうから飛んできそうなものだが、それでも高校に進学した時でもまだ男前だねとか言ってきたわけだから、それは多少のお世辞含みにせよ全くもって見当はずれなものではないだろう。


 ついでに言えば、俺は全く太ってもいないし禿げてもいない。背は平均より数センチ高いぐらいのものだが、少なくともチビというわけではない。要は外見だけなら、どこにでもいそうな平凡たる男なわけだ。俺と同程度か、もしくはいくらか見劣りするレベルのルックスでも、彼女を作ってなんなら結婚にまで漕ぎ着けている奴はたくさんいるし、実際俺の友達にもそういうパターンは何通りか存在する。


 俺が独身ライフを荏苒じんぜんと送っているのは、だから間違いなく内面的な問題なのだ。威張って口にすることではないが、自分のことは誰よりも自分が一番わかっている。

 端的に言って、俺は人に優しくない。他人のために自分を犠牲にしたり、労力を費やしたりすることに意味や魅力を感じないのだ。しかし、世の女というのは男に対して、まずなによりも優しいということを当然たる前提条件として挙げることがほとんどであるため、俺は圧倒的に不利な立場で向き合わねばならないというわけだ。


 自分で言うのもどうかと思うが、俺は子どもの頃からわりと怜悧れいりな部類の人間で、勉強でも運動でもアルバイトでも特にこれといって気張ってやらずとも人並み以上にこなしてきた。

 運動は頭の良し悪しよりも身体能力の問題が大きいが、それも平均水準を下回ることはなく、だいたい中の上以上をキープしていた。今思うとただの器用貧乏野郎だったとも言えるが、たいして努力しなくともなんでもこなせてしまうがゆえに、出来ない人の気持ちがよくわからなかった。


 ガキの頃から今みたいに歪んでいたかというとそうでもなく、小・中学生の時なんかはクラスメイトに勉強を教えたりしていたこともあった。だが俺の経験則では、そういう慈善行為が自分にとってプラスになったこともあるいはそれを感じられたことも残念ながらなかった。むしろ、せっかく親切に教えても一向に理解してくれなかったり頓珍漢な質問を返されたりすると、真剣にやっている俺自身が馬鹿らしくなってくるのだ。

 結局、そういう行為はただ疲労を被るだけ――または面倒に巻き込まれるだけ――で現実的なメリットがないと気付いてから、俺は今のような我関せずを貫く性格になった。礼を言われたり感謝されたり等々、そういうリアクションを享受できることをいやしくもメリットと呼ぶのであれば、俺にはそういう趣味はないのでただの時間と労力の浪費に変わりない。


 今の自分の性格が特別問題とは思わないのだが、悲しいかな大衆向けでないことは理解している。俺は基本的に人付き合いを面倒に感じるたちであるが、それでも女への興味関心は人並みに備えているので、大学生の時などは彼女を作ろうとして行動に出たこともあった。

 厄介なことに、女というのは往々にして大衆に迎合する生き物であることを、俺は当時知らなかった。特に二十歳はたち前後の人間的に未成熟な時期とあってはその傾向が強く、俺みたいなタイプには眉をひそめるべきものという、いわばステレオタイプじみた愚かな観念により排斥することを選択してしまうので、俺の努力はその都度徒労に終わった。




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