紙とペンと鉄火味噌

雅島貢@107kg

タイトルでオチがバレる

 すっかり春めいて参りまして、春になりますと生えてくるのがふきのとうだのつくしだの。こういうの摘んで調理できたら人生が豊かになるなぁって思いながら、なかなか踏ん切れないのは、例えば病院の裏手に生えているやつ、これ、何を栄養にしてるのかなとか思うわけです。いや人体とかなら全然ウェルカムなんですが、薬品とかだとちょっと怖い。まあとは言え生えては来てますし、なんだか種類が分からないトリがついばんだりもしているようですから、そこまで壊滅的な事態ではないんでしょうけども、なんかねえ。あのトリはもしかしたら突然変異なのかもしれませんし。


 でもまあ、蛮勇を奮って摘んだとして、さてどう調理するかというと、こりゃあまあ、いわゆる鉄火味噌と言うんでしょうか、まず鉄火味噌を世間様はあんまり知らないかもしれないですな。長くダイエットをしてますと、たまに出会う。まあ長くダイエットをしてるというのが自己矛盾してる感はあるんですけども、ようするに野菜の味噌炒め、でいいんでしょうか。マクロビかなんかで出てくるやつですな。マグロは入ってません。じゃあなんで鉄火なのかというのは普通に良くわかりません。もしかすると入ってる野菜にもある種の制限があるのかもしれないですが、まあとにかく味噌メインになるように野菜を細かくして炒めて和えて、これを冷まして米などに載せて食うやつです。塚田農場のお土産でもらえるやつに近いかな。


 とにかくまあ、そんなんをふきのとうで作ってみたいなぁって毎年思ってるんですけども、さっき言ったみたいな理由でまず摘むのがハードル高い、その後の調理もどうしたらいいか分からない、アク抜きに至っては何がなんだか分からない。そうなってくると、奇跡的にどっかの店で出してくれるのを待つばかりで、それで春先になるとインターネットを巡回したり、実店舗を回ったりして、「おっ、ここはふきのとう出てきそうだな」「つくし料理とかやってるんだ」ってのをね、メモって回るわけです。ええ、紙とペンでね。


 何もこのご時世、わざわざ紙とペンなんか使わなくてもって思うかもしれませんけども、やっぱまあ、書くってのは負荷がかかる分、記憶に刻み込まれるというかな。特に私なんて、書くのがそんなに得意じゃあなく、漢字も覚束ないですから、ひいひい言いながらメモ取って、でそうすると、ああお腹が空いたなぁ、なんか食べたいなぁって時に、ハッと頭の中に、自分の書いた汚い字が浮かんできて、よぉしあの店に行ってみようとこうなる寸法です。


 それでまあ、先日もカリカリとうまそうな店をメモってたわけですけども、そうすると声をかけてくる人がいる。

「おや、今時紙とペンでメモかい。感心、感心」とこうくるわけです。この「感心、感心」ってのは完全に皮肉ってる口調でね。こいつはスマホというものを知らないのかな? みたいな。便利なToDoリストアプリもあるんだけどな? みたいな顔して話しかけてくるわけですよ。こっちも暇じゃあないですから。今こっちは一期一会でね、必死で「旬の野菜 店」とか、「山菜 ランチ」とかで検索かけてるわけだから。スマホは知ってますし。その知ってるスマホのメモ情報なんて聞かされたらたまったもんじゃあないですから。なので先手を打ったわけです。


「ええそうですよ。ところで、紙とペンならどちらが強いかご存知ですか」

 ってね。もう口からでまかせで。そもそも紙とペンに強いも弱いもありゃあしないじゃあないですか。ところがこうした輩は、こういう一風変わったことを尋ねますと、「おっGoogleの入社試験かな」とかね、そんなことを勝手に考えて、スタイリッシュなことを答えようとするわけです。考えてる間は黙ってくれますし、答えがあれば適当に反論すればまた黙る。案の定、相手は何かそれらしいことを言って尊敬されようってな顔で、必死で考えてます。


 安心してサイト巡りを続けてたらね、こういうわけです。

「それはペンだろう。だって、ペンがあれば紙がなくても、たとえば指先だって、机の隅だってメモは取れるが、紙は紙だけあったって使えない」

 ええ、ですからすぐに言いましたとも。

「そうですかね? ペンは筆記にしか使えませんけども、紙の用途は圧倒的に多いですよ。ものを拭いたり、何かを包んだり」

 そしたらあちらさん、火がついたみたいで、止まらなくなっちゃって。

「そんなので言ったら、ペンだって重しになったり、回して時間つぶしをしたり、なんかある種のリセットボタンを突っついたりするのに使うだろう」

「紙はティッシュペーパーもあれば和紙もあって、そもそものバリエーションが違いますなぁ」

「君、バリエーションって言い出してまさかペンに勝てると思った? 嘘だよね? 全国、いや全世界のペンコレクターに知れたら、君の住所氏名性癖まで一瞬でネットに公開されて大炎上ものだよ」

「わたしゃあペンコレクターに悪い人はいないと思ってますけども」

「そう。ペンコレクターに悪人はいない。これもペンの有利な点だね」

 なんてな具合でね。止まらなくなっちゃって。もうこりゃあ、潮時だと思いまして。


「ハイハイ、アンタがてっぺんですよ。ペンだけにね」

 って言ってやって。そしたら途端に上機嫌でね、「イヤイヤ、てっぺんだなんてそんなそんな」なんて謙遜を始める。そのまんま、鼻唄でもうたいだしそうな感じで、何を調べてたんだい、なぁんて余裕の感じで聞いてくる。こっちは観念してますから。

「ええ、ふきのとうで鉄火味噌みたいなの作って食べさせる店なんかないかなと思って」

 って素直に言ったら、

「良いねえ、鉄火味噌。ボクもね、てっぺんなんか取るより、鉄火味噌でも舐めてる方が幸せだよ」

 なんてね。謙虚ぶって言うわけです。だから私はこう言ってやったんですよ。

「だったらやっぱり、紙の方が強いと言うことになりますなあ」

「はあ、なぜ?」

「だって、てっぺんペンよりも、鉄火味かみ噌の方がよろしいんでしょう?」

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