紙とペンと核兵器

佐賀瀬 智

南ゲートフロント

「MX、またおまえかよ」


「なによJJ、あたしだって違うやつがよかったわよ。もうこれで何回目?あんたとは」


 南ゲートから見下ろす向こうには人類の最前線のchk22基地がある。ロボット兵士のMXとJJの任務はこの最前線の南ゲートフロントの見回りだった。


「夜の見回り、めんどくせー。つか、なんで最前線はいつも俺たちヒューマノイドにやらすんだよ。こんなもん、センサーとレーダーで出来るじゃん」


「仕方ないわ。あたしたちヒューマノイドは見た目も人間に近いから、人間に精神的ダメージをあたえやすいんだって」


「セイシンテキ? 待って今調べる。...そうか。なるほど。ってよくわかんねーや」


「だからあんたは最前線なのよ」



「おっ、これなんだ? 変なのヒットしたぞ。なんかあいつら、ホントばかだよな。『ペンは剣よりも強し』だって。ペンが人を動かせるとマジ思ってたみたい。文章を紙に書いた著書、それが人を動かす、それは武器よりも強いと、ペンが武器よりも勝るとデータにあるよ。え、紙ってなに?感動ってなに?ぷぷ。超受けるんだけど。どんだけ低能?」


「ちょっと、まじめに任務遂行してよ」


 プシュン


 赤い閃光とともに音がした。その瞬間、JJの右腕がぶっ飛んだ。腕の付け根から大量の血が吹き出す。


「ギャーーーー、う、腕が、俺の腕があああああ」


「あいつら撃ってきた」


「ぎゃーー、痛い、痛い、助けて、MX」


 吹っ飛ばされた右腕の付け根から血が滝のように出ている。


「うるさいなあ。黙って死ねば。ふふ」


 プシュン


 次の閃光はJJの右足を吹き飛ばし、JJは倒れ込んだ。



「ぐああああああーーーーーーー、俺の足、あしーーーー」


 片手片足を吹き飛ばされた血まみれのJJがのたうち回りぴくぴく痙攣している。


「うるさいっ! だまってよ。もうやめて、そんな猿芝居。あたしもあんたも人間じゃないんだからそんなことやったって無駄」


 JJは苦痛に耐えかねて泣き叫ぶ悲壮な顔から一転して、いたずらっ子のような笑い顔になり、


「あはっ、そうだったね。でも、撃たれたときのフレーズ好きなんだ。言わせてよ。こう、息を荒くして、『ああああ、俺はまだ死ねない...死んでたまるか...』とか、映画とかアニメとかからプログラムされてるやつ」


 右腕と右足を吹っ飛ばされ血池の中で、血まみれで横たわり楽しそうにしゃべる。


「あとさ、おかあさんとか、愛してるとか、愛とか友情とか死とか、奴ら、そういう言葉が好きだよねー。泣いちゃったりして。それに奴らにとってヒューマノイド女形の威力はんぱねーよな。胸なんかちらっと見せて、その気にさせたらイチコロだろ。だから女形のヒューマノイドが多い。ねえねえそういう戦法やったことある?」


「ああ、まあね」


「いいなー。俺、次、女形にしてもーらおっと。それよりさ、この赤いネトネトとこの肉、どうにかならないの。なんでこんな無駄なもの装備しないといけないんだよ」



「人間は血とか肉片とか見てひるむのよ。だから肉体が破壊されるときはぐっちゃぐっちゃでグロい方が効果的なのよ」



 プシュン



 赤いレーザー光線がMXの首に当たったかと思うと、ぐわんとMXの頭部が後ろに折れ、管のようなものでやっとぶら下がっている。血が噴水のように本体の首の付け根からふきだす。背中にぶら下がったようになったMXの頭部の美しい金髪は血でベットリと濡れ、ブルー眼球は飛び出し管のさきでぶらぶらしている。血が肉片となにかわからない白っぽい液体もまざってぐちゃぐちゃになって辺り一面に吹き飛んでいる。


「ぎゃははーーーーーマジ受ける。首後ろに折れた。お前どこ見てんの?後ろ?」



「うるさい。だまれ、JJ。ちくしょー。前が見えない。なんでセンサーが頭部の目にしかないのよ。ほんと、ヒューマノイドタイプが性能悪い粗悪品だってことが身に染みてわかるわ」


 そういってMXは後ろに垂れた頭部を引きちぎって、小脇に抱え、垂れ出た眼球を元のアイソケットに押し込んだ。


「これで前が見えるわ」


「ホント、片足吹っ飛んだら立てないしね。誰が考えたの、この形。マジ最悪」


「あ、今、指令きたわね。撃つわよ」

「OK」

 MXは肩に掛けているリトルニュークリアボムのシリンダーをアンロックしターゲットの場所を告げると、それはオートマチックにターゲットを絞り、ファイヤーというMXの声で作動した。


「ターゲットchk22地区 着弾」


 MXたちのいる南ゲートから奇妙な形の煙雲がはっきりと見えた。



「報告:こちらMX、JJ 南ゲートフロントより、ターゲットchk22地区 ミッションコンプリーテット。只今よりセルフ撤収」


 MXは血まみれで自分の頭部を右手て抱えて、左手でJJの右腕右足のなくなった血まみれのボディーをずるずると引きずりシェルターに向かう。


 うつ伏せの状態でずるずると引きずられ、JJの唇はめくれ剥げ落ち、歯がむき出しになり石に擦れ軋む音がする。顔の肉が削ぎ落とされていき、機械の一部が見えてきた。顔面血だらけで目をキョロキョロさせて、楽しそうにJJが言った。


「ねえねえ、MX、ホントに奴らペンは武器よりも強いって思ってるのかな。それともよく奴らが使うジョークっていうやつ?」



「ジョークでしょ。そんなの」





 おわり

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紙とペンと核兵器 佐賀瀬 智 @tomo-s

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