描いて変身! 魔法少女!

咲兎

描いて変身! 魔法少女!

「うわあああ!!!」


 ある夏の日、俺は、街中を逃げていた。街を歩いていたら、突然目の前に怪獣が現れたんだ。

 俺自身、信じられないけど、俺の目の前に今それはいる。バス1台分の大きさはあろうかという巨体な蟹の怪獣が!


「ふっ、どこへ逃げようというのだ! お前はもう終わりだ!」


 意外にも、シブくてカッコいい声で、爪を掲げながらそう叫ぶ蟹の怪獣。

 くっ、なぜか周りに人がいなくなってるし、携帯も繋がらないし、このままじゃ……。


「そこまでです!」


 その時、私の目の前には近くの中学校の制服を着た1人の女の子が現れた。


「ほう! 来たか魔法少女!」


 魔法少女? 怪獣の次は魔法少女? 言われてみれば、女の子は魔法少女の服装が似合いそうな子だ。


「ふふ、準備は出来ている。来い!」

「では、遠慮なく……変身開始!」


 女の子はそう言うと、


 おもむろにカバンからスケッチブックを取り出し、何かを書き始めた!


「いや、ちょっと!? 何してんの!? 今の、戦う流れじゃ!?」

「何言ってるんですか! 今、まさに戦闘中でしょう!」

「え?」


 ふと、蟹の怪獣の方を見てみると、怪獣もハサミを器用に使い、どこからか取り出した巨大サイズのスケッチブックに絵を描いていた。しかも、無駄に上手い。


「いやいや! あんたも何やってんの!?」

「黙れ人間! 集中出来ん!」

「そうですよ、おっさ……お兄さん! 黙って下さい!」

「今、何か言った?」

「いえ」


 テメェ、アラサーの事おっさんって言うのやめろや。


「出来た!」

「ぬわぁ! しまったあああ!」

「いや、何が?」


 俺が、そう呟いた次の瞬間、女の子は光を纏って、白を基調とした魔法少女らしい服を身に纏っていた。


「オラアアアァ!」


 女の子は、一瞬で蟹との間合いを詰め、蟹をぶん殴った!

 途端、とてつもない轟音と共に蟹がワンパンで粉微塵と化した。


「……」

「ざっこ」


 女の子は、そう詰まらなそうに呟き、全身についた返り血を拭った。


 ……最近の魔法少女は……強いなぁ。

 色んな意味で。


「あっ! お兄さん、初めまして!

 私、魔法少女の白鳥せんって言います。さっきはお見苦しい所をお見せしました!」

「あっ、うん。まぁ、良いけど」


 切り替えの早い子だな……。

 というか、その全身血塗れの服で笑顔の自己紹介は正直、やめてほしい。


「あっ、失礼しました。変身解除しますね」


 そう言うと、女の子はカバンから消しゴムを取り出し、スケッチブックを開いて、先ほどかいていた何かをその消しゴムで消す。

 すると、彼女は元の姿に戻った。

 そして、返り血も無くなった。良かった……良かった……。


「こほん、事情を簡単に説明しますね」


 それから、俺は魔法少女センに簡単に事情を聞かされた。

 何でも、この地球では、宇宙から来た怪獣が陰ながら人を殺しているらしい。そして、そんな人達を助けるべく、異世界の神と契約した少女達が魔法少女だとか。


「なるほど、そんな物語みたいな事が本当にあるなんてね。で、1つ聞いて良い?」

「何ですか?」


 俺は、1番聞きたかった事を聞く事にした。


「何でさっき、何かかいてたの? 怪獣は何か武器? っぽい絵描いてたし」

「あぁ、それですか。私のような魔法少女は、変身する時にあぁする必要があるんですよ」

「え……何? どういう事? スケッチブックにかく必要があるの?」


 え? 変身って一瞬でパっと出来るものじゃないの? っていうか、何で敵もお絵かきに付き合ってるの?


「あそこに、自分の変身後の姿をいかに早く描くか……それが、私達魔法少女の戦いなんです。ちなみに、書き込みの度合いが高い程、戦闘力が増します」

「えぇ……何それ……ちなみにゆっくり書いてるとどうなるの?」

「敵の変身が完成します!」

「敵の変身!?」


 何? 怪獣も変身するの!?


「敵は、こちらに対抗するため変身するんです。もし、敵の変身が完了すると……てこずりますね」

「え? 変身されると負けとかじゃないんだ」

「え? それはまぁ、人によると思いますけど。私は別に変身しなくても1分以内には倒せますね」

「変身の意味!」

「返り血の付いた服を洗濯しなくて良いです」

「大事だった!」


 血濡れの制服で歩く中学生……嫌すぎる。

 っていうか、そんな娘が帰って来た時、親御さんはどんな気持ちなんだろう……。


「クックック! 貴女、中々やるじゃない!」


 その時、どこかから声が聞こえてきた。結構、幼めな女の子の声だ。


「はっ!」


 その女の子は、どこかから飛んで現れた。

 予想通り幼く、小学生か、上でも中学生くらいに見えるツインテールの女の子だった。


「私は、飛山静音! 魔法少女シズよ!」

「……はぁ、そうですか」

「なによ、その反応は! 同業者でしょう!?」


 セン、君呆れてるけど、さっきの君あの子より、遥かにやばい人だったからね?


「私は、たまたまこの街に遊びに来ていた魔法少女よ! まさか、この街にも魔法少女がいるなんてね! ここは、ど、ち、ら、が! 魔法少女として優れているか、決闘よ!」

「じゃあ、貴女で」

「やったあああ! じゃ、なくて!」


 ……もう、帰って良いかなぁ……って言うか、アレ? 

 怪獣を倒したはずなのに、周りに人がいないんだけど、いつも人通りの多いこの通りに人がいないなんて……怪獣の力じゃなきゃ起きる訳……。


「仕方ないわね! こうなったら、やれ、我が僕! サラマンダー!」


 シズがそう言った次の瞬間、上空から俺たちの方に向かって、一匹の竜のらしきものが下降してきた!


「うわっ! 何あれ!」

「あれは……怪獣です!」

「アハーハッハッハッ! そうよ! あれは怪獣! 見なさい!」


 そう言って、シズがこちらに見せてきたのは先ほどセンが持っていたのと同じスケッチブックだった。

 そしてスケッチブックの中には、竜らしきものが描かれていた。


「へぇ……そういう使い方もあるんですね……」

「魔法のスケッチブックだもの、怪獣を生み出す事も可能。そう、化け物には化け物をぶつけるのよ! 

 いくらあんたでも、このスケッチブックで生み出されたサラマンダーに変身無しで勝つ事は出来ないでしょ! 

 アハーハッハッハッ! この勝負! 貰ったー!」


 次の瞬間、サラマンダーがセンの体に衝突する! ……事はなかった。


「……お兄さん、絵描けます?」

「なっ! あ、あんた本当に人間なの!?」


 センは、先ほど絵を描く際に使っていたペンで、竜の攻撃を防いでいた。

 そうか、あのペンも魔法のアイテムだから、同じ魔法で作られた竜の攻撃を防げるのか……。

 いやいや、にしても、身体能力が化け物過ぎるでしょ! この子!

 今、あの竜、ビル以上の高さから落下してきたぞ!? なんで、片手で受け止めてんの!? 変身してないんだよね!?

 と、動揺してる場合じゃない。答えないと。


「えっと、う、うーん最近デジタルでしか描いてないから、どうだろう……」

「でも、描ける事は描けるんですね? なら、そのスケッチブックに魔法少女の服を描いてください、このペンで!」


 そう言って、センは攻撃を防いでいたペンを思い切り、俺の方に投げた!

 えぇ! 攻撃を防ぐペンが無くて、大丈夫なの!?


「ふっ! はっ!」


 だが、驚く俺をよそに、センは、竜の攻撃をひたすら回避し続けていた。な、なんて速さ……。


「貴方の思う魔法少女の服で良いです! こっちは、あまり持ちません! さぁ、早く!」

「分かった!」


 とりあえず、時間がない。こうなったらなんでも良いから書こう。


「出来たよ!」

「えっ! ちょ、ちょっと! 早すぎません? 本当に服の形になってるんですか!?」

「あ゛、だ、大丈夫……やってみて!」

「今、あ゛、って言いました? 言いましたよね!? ええぃ、もう変身!」


 センの体が光に包まれる。そして、次の瞬間。


「……あの、これはどういう事でしょうか?」

「……咄嗟に描いた結果です」


 俺が、描いたのはエロゲに出てくる魔法少女の服だった。露出がめちゃくちゃ多く、ぴちぴちである。


「……うわぁ」


 シズにもドン引きされる。俺の大人としての何かが終わった瞬間だった。


「死ねええええ!!!」


 その状態で、センは竜に一撃叩き込む。なぜか、その声は竜ではない者に向けられているような気がした。


「OOOOOO!!!」


 竜は叫ぶ。俺も叫びたかった。

 そして、魔法の力で出来た竜は消滅し、戦いは終わったのだった。


 戦闘後、センは即座にスケッチブックを俺から取り上げ、絵を消しゴムで消し、変身を解いた。


「ありがとうございました。でも、あれは……」

「すみませんでした」

「まぁ、気にする事ないわよ! おっさん! ちょっとした失敗位あるものだから!」

「ありがとなシズちゃん。でも、おっさんじゃねぇ」


 怪獣が消え、街中には再び活気が戻っていた。

 恐らく、俺もまた日常の中へと戻っていくのだろう。彼女たちと会う事はなくなるのだろう。


「今日みたいな事をまた続けるのか?」

「えぇ、しかし、まぁ……今日があるいは今までの戦いの中で一番の危機かもしれませんが」

「もうやめてね」

「にしても、そんなに強いなんて、あんた何者なの? セン」

「一魔法少女ですよ。ただ、私昔からこのペンの魔力と相性が良くて、このペンが近くにあると身体能力が上がる特異体質なんです」

「ゔぇ!? そんな事ってあるの!? っていうか昔? 魔法少女が出来たのは最近って、同じ町の魔法少女の友達から聞いたけど?」

「……何でもないです」


 ん? 何か、センが俯いてる。なんだろう?


「では、私はこれであのお兄さん。最後に名前を聞いても?」

「ああ、東郷和也だ」

「そうですか。ありがとうございました、では」


 そういうと、センは足早に去っていった。何か色々と変わった奴だったな。

 ……でも、思い返すと、何かどっかで似た奴を見たような。


 一方そのころ、センは。


「あの男、何故、私が元居た世界の敵組織の魔法少女の衣装を知っている? 調べる必要があるな……」


 2人の関係はこれからも続くかもしれない……。


 終

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描いて変身! 魔法少女! 咲兎 @Zodiarc2007

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