追放された紙とペンは部屋の隅にある辺境でひっそりとスローライフを営むことになった
けろよん
第1話
紙とペン。それは書くのに便利な物として古来より様々な人々に愛されて使われてきた。
だが、近年になってその存在を脅かす物が現れてきた。
どこにでもある平凡な家にある一室。それはそこにも現れようとしていた。
部屋にある机の上。そこに紙とペンが載っている。彼らは噂していた。
「知っているか? 使い切られた道具は異世界に転生してチート能力を持って生まれ変わるらしいぜ」
「それは楽しみだな。ここのご主人はマメに書き物をするから楽しみだぜ。早くその日が来ねえかな」
紙とペンは今日も使われるのだろうとワクワクしていた。だが、そうはならなかった。
今日のご主人は大きな箱を持って帰宅した。部屋に入ってくるなりその中に入っていた物を机に置いて、紙とペンは手に取られた。
そして、紙とペンは信じられないことを言われたのだ。
「PC買ってきたからもうお前らいらないわ。ペンはすぐに使えなくなるし、紙はゴミになるからな」
「なんだってーーー!」
「うわあああ!」
紙とペンは無造作に部屋の隅にある辺境へと投げ捨てられてしまった。彼らは憤慨した。
「何と言う事だ。長らく愛用されてきた俺達がお払い箱にされるとは。PCがあるからもういらないなんて」
「おのれ、PCめ。だが、仕方ない。いつかご主人が俺達が本当は必要だったと思い知る日が来ることを信じて、ここでスローライフすることにしよう」
そうして使われなくなった紙とペンは部屋の片隅にある辺境でスローライフすることになったのだった。だが、生活すると言ってもすることが無かったのでじっとしているだけだった。
「ふざけるな! これならスローライフじゃなくてストップライフじゃないか!」
「ご主人は俺達の重要さが分かっていない! 何がPCは便利だ! 馬鹿なんじゃなかろうか!」
紙とペンは大層怒ったが、使われる日は思ったより早くやってきた。
「紙、紙はどこに投げ捨てたかなー。お、発見」
部屋の隅にある辺境から紙が一枚取られ、ご主人の手に持たれた。
「おお、活躍してこい。我が一枚よ」
「俺もー。このペンもー」
ご主人は紙は取ったが、ペンまでは取らなかった。
紙を持って部屋の中央で屈んだ。
「ゴキブリの死骸なんて素手で触れないよな。紙があって良かったぜ」
そして、紙でゴキブリの死骸を掴むと、それをゴミ箱に投げ捨てた。
ご主人はとても満足した様子で背伸びして、再び机に向かった。
「ふう、ゴミが片付いて一件落着。さて、書き物を続けるか。PCって便利だなあ」
「「…………」」
紙とペンはしばらく呆然としてから不満を爆発させた。
「違う! そうじゃない!」
「ペンを使わないなんて! いつか思い知ることになるぞ!」
紙とペンは再びスローライフをすることになったのだが、必要とされる時はまたやってきた。
「行き詰っちまった。ペンペン~、ペンはどこにやったかなー。お、あそこだ」
「おお!」
「頑張ってこいよー」
ペンが部屋の片隅の辺境で拾われ、机の上という輝ける王都までやってきた。ペンは今度こそ自分が使われる、役立たずのPCざまあと思ったのだが……
「困った時はやっぱりこれだよな」
ペンは書かれることもなく机の上で転がされた。それが向いた面を見て、ご主人はとても満足した様相で頷いた。
「二番の展開にするか。行き詰った時はやっぱりペン転がしだよな。机の上狭いからお前もういらないわ」
「ええーーーー、まだ何も書いてもらってない」
ペンは再び部屋の片隅の辺境へと投げ捨てられた。そこでは役立たずの紙が待っていた。
「お帰り、ペン」
「ただいま、紙」
そして、彼らはこれからも部屋の片隅にある辺境でスローライフをすることになったのだった。
遠くでPCの鳴る音を聞きながら。
追放された紙とペンは部屋の隅にある辺境でひっそりとスローライフを営むことになった けろよん @keroyon
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