紙とペンと、おちんちんおしゃぶり姫
にーりあ
全ては愛で出来ていた
「この部分はもうちょっとペース早めでお願いします」
「わかりました」
紙にペンでスラスラと注意書き。
マイクに向かってお芝居を始めます。
「今のシーンなんですが、前と後ろで体位変わってるんで少したっぷり目でお願いしてもいいですか」
「たっぷりめっていうと……」
「あ、気持ち若干くらいで」
「わかりました」
紙にペンでスラスラと注意書き。
マイクに向かってお芝居を始めます。
しばらくすると、不意に演者が手をマイクに近づけます。
かぎ型に折った人差し指の第二関節に口をつけて、ややあってから、ソレを舐めしゃぶり始めます。
舐める速度は次第に早く。角度を変え、口のすぼめ方を変え、舌の動かし方を変え、そうやってちょっと変わった音をマイクに向かって奏で始めます。
そうして合間合間に、苦し気に、演者は喘ぎました。
「あぁん、はぁぁん」
演者の手にあるのは、紙とペンと、代替ちんちんたるみずからの指、おしゃぶり姫。
そんな調子で、演者はセリフをいいながら、はぁはぁと息を切らしはじめると、普段の生活ではあまり耳にすることのない単語をこれでもかというほどに言語化し始めました。
薄暗い収録ブースの雰囲気も手伝ってか、この頃にはもうノリノリです。お口の中はさながらスティックインサイドです。
「OKです。今の最後の部分、ちゅぱ音少なめでいただけますか」
「はい。……あのここって、口に出す所ですよね。そのへん大丈夫です?」
「はい大丈夫です。ここ絵が切り替わるんで」
「わかりました」
紙にペンでスラスラと注意書き。
マイクに向かってお芝居を始めます。
演者はもうこの頃になるとトランス状態でした。
神が下りてきているかのようでした。
演者のお仕事は、現代で言ういたこさんなのかもしれません。
紙とペンを駆使して、その者はブースの外にいる者の要望をくみ取ります。存在しない誰かと誰かの営みの微妙な雰囲気を具体的な音声に変えていきます。
「三行前から始まるラッシュなんですが、けっこうパンパンしてるのでリズム強めに刻んでもらっていいですか」
「わかりました。あ、あと質問なんですけど、ここの、お、まん、こぉぉいいのぉっていうセリフは、前のセリフの濃いのを出してっていうのとかかってるんですかね」
「あぁ、そうですそうです。中に濃いのをそそいでぇ、みたいな」
「あぁやっぱりそうなんですね、わかりました」
「ちなみに前のセリフの濃いのを出して欲しいって部分は恋愛の恋と濃い薄いの濃いがかかってるんですよ。この子の普段のメルヘンチックな部分が、火がついちゃうと欲しがりキャラに変質させるっていうか。ふだんの幼さというかロリっぽさの枠を維持したまま、中身に熟女的な渇望というか、妖艶べっとりめというか」
「べっとりめ……」
「快楽をむさぼる欲求が強いってかんじですかね」
「あー、なるほど。わかりました」
紙にペンでスラスラと注意書き。
今度は先ほどと違い、やや難しい顔の演者です。
そうして少し置いてから、マイクに向かってお芝居を始めます。
それは迫真でした。
けたたましい数々の普段日常ではおよそ聞くことのないセリフがブース内を舞います。
「OKですいただきましたー! じゃあ最後キスシーンいきます」
「ここ余韻に浸ってますよね。キスは軽い感じでいいですか?」
「あー、ここなんですが、抜き原稿には書いてはいないんですけど第二ラウンド発生するフリにもなってるんで濃い目で」
「ディープな感じ?」
「ややディープで」
「ややディープで。りょです」
紙にペンでスラスラと注意書き。
マイクに向かって演者はセリフを吐きます。
その時、またしても演者の手がマイク前へ。
セットアップされるおしゃぶり姫。――しかし今度は、指ではありませんでした。
親指の付け根辺りに、演者はいとおし気に唇を持って行ったかと思うと、そこで控えめな音を紡ぎ始めたのです。
だんだん強く、早く、大きく! ――と思いきやリタルダント。
まるで存在せぬ何者かと語らうような液の音でした。
「いただきましたー! お疲れ様です!」
「おつかれさまでーす!」
かの演者は、無き面影に魂を吹き込む魔法使いなのかもしれません。
紙とペンとおちんちんおしゃぶり姫で、存在しない秘め事を形にする、音の魔法使い。
そんな演者らのおかげで、モノカキらは、今日も架空美少女らの日常を書くことができています。
モノカキはテキストを読ませ、演者らは雰囲気を読ませ。
そうやって作り上げられた作品が、今日も人から人へと伝えられていく。
それはとても素敵な事でした。
魔法使いは今日も今頃、どこかの現場で魔法を振るっていることでしょう。
紙とペンと、おちんちんおしゃぶり姫を駆使して。
紙とペンと、おちんちんおしゃぶり姫 にーりあ @UnfoldVillageEnterprise
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