今、伝えよう。

卯野ましろ

今、伝えよう。

 え、今回で終わり?


 大好きなWeb漫画作品が打ち切りになった。正に「俺たちの戦いは、これからだ!」という終わり方で、とても残念だ。


 あ、先生のコメント……。


「今まで応援ありがとうございました。私の今後の活動については未定です。またどこかでお会いできたら良いですね。そのときは、よろしくお願いします。」


 未定……。もしかして先生、漫画家やめるんじゃ……?

 嫌な予感しかしない。

 「やめないで」と伝えるには、やっぱり……。


 そこで私は、あるものを探した。


 お、あった!


 ファンレターの宛先を見つけた。

 けれど私は、すぐに行動に移さなかった。色々と思うことがあり、まずは親友に相談した。


「何を悩んでいるのっ? 絶対に書きな!」

「え、でも……」


 親友は昔、ファンレターを送ったことがある。


「でも今ってメールとかSNSとか、そういうものを利用することが多いでしょ? それなら紙だと邪魔になるし、迷惑なのかなって……」

「それが逆に良いんじゃん! だって紙だと手元に残るんだよ! 読み返すことも手軽にできるし……。それにメールやSNSが主流になっている今、わざわざ手書きで切手を貼って出すなんて、自分のためにそこまでしてくれるんだ……って感動するよ絶対!」

「そうかな……」

「大体さ、そこにファンレターの宛先が書いてあるなら『ぜひ送ってください!』って言っているようなもんだよ?」


 言われてみれば確かにそうだ。本当にいらないのならば最初からファンレターの宛先なんて用意されない。


「ふみちゃんは気にし過ぎなんだよ。それが優しさからきているのは分かるんだけど」

「わ、私は優しくなんか……」

「優しいよ。前に、あたしが嫌なことがあって落ち込んでいたとき、ずっと話を聞いてくれたし。それにいつも手紙をくれたでしょ? あれ、すごく嬉しかった。今も大事にしているよ」

「……ありがとう」

「あたしの方が、ありがとうだよ! だからさ、こうして手紙をもらって喜んでいるヤツもいるんだし……書きなよ! 優しいふみちゃんが書くファンレターをもらったら、みんな嬉しくなると思う! いや、なる!」




 親友に背中を押してもらって、私はファンレターを書くことを決めた。レターセットはたくさん残っていた。手紙を書く機会は少なくなったんだな、と改めて思った。

 それでも親友が私に言ってくれたことは正しいと思う。心のこもった手紙をもらって嬉しくない人なんていないし、私だって嬉しくないと感じたこともなかった。それに「頑張ってください」と思っているだけでは当然伝わらない。実際に会ったことがない、顔の知らない人ならば尚更だ。


 だから私はファンレターを書いた。


「書けた……」


 あとは封をして、切手を貼って、送るだけ……。


 久々に手紙を書いたが、とても楽しかった。自分が思っていることを素直に出すことも、人のために何かをすることも、やっぱり気持ちが良い。




 一ヶ月後……。


「文代、手紙が届いているわ」


 お母さんに渡されたのは、ファンレターの返事だった。


 嘘でしょ……?


 すごく嬉しかった。私のやったことは間違いじゃなかったんだ。本当によかった。


 先生からのお手紙をぎゅっと握りしめながら、私は心の底から思った。




 数ヵ月後……。


「新連載……!」


 先生の新しい作品が発表され、また私は喜んだ。


 紙とペン、そして私。それで誰かを幸せにすることができるのだ。

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