パーティーを追放されたからオネエになりました

華乃ぽぽ

パーティーを追放されたからオネエになりました

「今日でパーティー抜けてくれない? エリオット」


 そう言われたときは青天の霹靂だった。


 俺の何がいけなかった? 

 魔法の腕は自信がある。

 それに、パーティーの皆が面倒くさがる、料理や洗濯も担当もしてきた。経理から恋愛相談、愚痴の付き合いまでなんでもやってきた。

 このパーティーに尽くしてきたはずだ。


 驚きのあまり、俺は唖然として口をぽかんと開いていたが、我に返って声を絞り出す。

 やっと入ったパーティーだった。狙った獲物は逃さない、百発百中の弓の腕を持つ『赤眼のホークアイ』ハイエルフのラスティ。

 A級冒険者で、眉目秀麗。

 そんなにラスティに憧れていた俺は、丁度魔術士を募集してた故に、俺は頼みに頼み込んで、パーティーに入れてもらったのだ。


「な、なんで急に?」

「新しい魔術士が入ってくれる事になったのよ。そう、ようやくあのディールが誘いに乗ってくれたの。元々あんたはその人がパーティーに来てくれるまでのつなぎだったし、パーティーに魔術士は二人もいらないし、ま、そゆこと」


 長くとがった耳をしたパーティーのリーダー、ラスティは言った。


 ディール。それはこの国で最も評判もよく、イケメンで有名な魔術士だ。魔術の腕は知らないが自分と同じB級の冒険者だと言うことは知っている。


 十六歳で童顔でひょろひょろとした体格の俺に比べれば、イケメンで評判のいいディールを取るのは当然か。


「じゃ、今までありがと。これ、餞別。明日からはついてこないでよ」


 そう言って、ラスティは俺にいくらかの通貨が入った袋を渡し、俺に背を向けてひらひらと手を振った。

 他のパーティメンバーも同様に、挨拶をして俺に背を向けていく。



 そうして俺は一人になった。



◇◆◇◆◇◆◇




 五年後 俺は様々な国へ渡り、がむしゃらに頑張り、S級冒険者の資格を取得していた。

 冒険者ギルドは世界各国にある組織で、身分証であるカードを提示すれば、S級冒険者である自分は何処にでも行けた。


 そんな中、とある国の王から招集がかかった。

 なんでも勇者と一緒に魔王を倒しに行くパーティーに参加しろと言うことらしい。

 パーティーは五名。勇者、聖女、魔術士、戦士、弓使い。

 若くして魔術士でS級冒険者になった俺の噂を聞きつけたのだろうか。

 そして今俺達は魔王を倒すために、魔大陸へ向かって旅をしている。


「て訳なのよエリ姐さーん」


 おーいおいおいおいと、エールの大ジョッキを片手に大泣きをするのは、あの長耳ハイエルフ『赤眼のホークアイ』ラスティ。


「あんた馬鹿なの? 国で一番人気のある男があんたみたいなガサツな女に振り向くと思ってた訳〜?」


 そう、俺は以前俺をパーティーから追い出した女に誘われ、酒場で酒を共にしていた。


 何故今俺がこいつと一緒にいるのか?

 それは国から招集のかかった時、この女が偶然同じパーティーにいたのだ。

 俺の事をすっかり忘れているようで、何故か金魚のフンのようにいつも付き纏う。


「でもでもー、僧侶と一緒にお金持って居なくなるとか酷くない? だから、私はこんな良くわかんない勇者と聖女の護衛引き受けることになったのよー」


 酔っぱらいのラスティは、だんっと机の上に、エールを置き、また机にふせって泣き始める。


「あらやだ、あんた金のために来たのね」

「しょうがないじゃない。いろんなツケがあったんだから! これがなかったら奴隷落ちよ!」


 かく言う俺は、この五年間でオネエキャラへと変貌を遂げていた。

 母親譲りの、長くうねった金糸のような髪。母親譲りのエメラルドのような瞳。

 童顔だった顔は、誰がどう見ても美しいといえる容貌に成長したからだ。


 冒険者として世界各国を渡り歩いている為に筋肉はつけてあるが、相変わらず魔術士をしている為、いつもローブを身にまとっている。故に女に間違われる事が多かった。

 もう固定パーティーは懲り懲りだったが、ランクが上がり、誘いも増えた為、断るのに勝手がいいオネエキャラを演じることにしたのだ。


「君パーティーないなら一緒に組まないか?」


 なんて男共が来たら、


「あらん、お兄さん達、私をお誘い? あら、あなたちょっとタイプね」


 なんてローブをはだけさせ、ぺったんこの胸部を覆った腹筋の見えるライトアーマーを見せると、大体の男は退散していく。


 しかし言っておく。

 俺は心は男だ。

 旅の都合上や、自分の容姿を利用してオネエを演じているが、至って普通の男だ。


「うえーん、このままあたしは里に婿も連れて帰れず行き遅れのハイエルフとして生きてかなきゃならないんだー」

「行き遅れってあんた何歳なのよ」

「うっるさいわね、百八十七よ。なんか文句ある?」


 そう言えば耳か長い種族は長命だったと、思い出した。


「うう、勇者は村にいる幼馴染にしか興味ないし、戦士は聖女にメロメロ。ぐすん、このパーティーもあたしに縁は巡ってこないのねー!」


 ぐびぐびぐびとエールを飲み干したラスティは、バタン、と机にまた伏せる。


「あんた飲みすぎよ。明日に響くわよ」

「どーせ、明日も勇者と聖女にあわせて、E級やらD級モンスター退治だもの。これくらい」


 と深夜まで飲んだくれてるうちにラスティは酔い潰れ、仕方なく俺は酒場に併設された、ラスティの泊まる宿の部屋まで、ラスティを抱えて階段をのぼり、乱暴にベッドに放り投げた。

 そうしてそっと部屋を出ようとするその時であった。

 ラスティが突然言い放つ。


「思い出した。あんた、昔うちのパーティーにいた魔術士でしょ」


 ドキリと胸がなった。

 突然何を言い出すんだと、俺はラスティに振り返る。


「エリオット……そう、どっかで聞いたことあると思ったのよね」

「あら、人違いじゃない?」


 にこりと自慢の美しい笑みを見せながら、また部屋を出ようとする。


「待ちなさいよ。へー、あのチビまさかこんなふうに成長するなんてね」


 にやり、とラスティの赤い唇が笑う。

 スルリ、とラスティは俺の身体をこえて扉へ向かうと、ガチャリと開けようとした扉を閉めた。


「あんた、なにしてんの。酔っ払ってんのよ。早く寝なさい」

「俺、ラスティさんに憧れててどうしてもこのパーティーに入りたいんです! 何でもしますから、入れてください!」

「なっ……」


 ラスティは五年前、俺がラスティにそう言って、パーティーに入れて貰った言葉をそのまま言い放った。


「で、何でオネエなんてしてるの?」


 ラスティのギラギラとした赤い瞳が俺を貫く。狙った獲物は逃さない、百発百中の弓の腕を持つ『赤眼のホークアイ』


「べ、別に、何でもないわよ。ていうかそこどいてくんない? 帰れないでしょ」

「あたしの事、好きだったんでしょ? パーティー追い出されたショックでオネエになったの?」


 俺はじりり、と迫ってくるラスティに後ずさりしつつ冷や汗を流す。


「あ、もしかしてオネエは隠れ蓑? そうやってれば無防備な女が寄ってきて、色々相談されちゃうからでしょ? そんで好き勝手するんだー。あ、その顔は図星? いいわよ、黙っといてあげる。ただしこの冒険が終わるまで、私のいう事を聞きなさいよ。悪い思いはさせないわ、たまには相手してあげるし……」

「何言って……そんなことするはずないわよ」

「言い訳は結構よ、今から楽しみましょう?」

「だから違う」

「ほら、好きなんでしょう? 私の事」


 俺はその時、頭の血管がぷちりと切れる音が聞こえた気がした。

 ラスティの発言に我慢ならず、怒りを抑えきれなかったからだ。

 だんっとラスティの顔のすぐ横の扉に強く手のひらを打ち付ける。いわゆる壁ドンだ。


「あのなあ、いい加減にしろよ年増のバカエルフ」


 突然の俺の行動に、ラスティは目を見開いて動けないでいるようだ。


「お前なんかもうこれっぽちも興味ないし、女を騙すようなことなんざ一つもしてないっつーの。あんまなめた行動してると、お前のちょろまかしてる討伐報酬、みんなにバラすぞ。そしたらお前はパーティーから追放されて、成功報酬も貰えずに、今までのつけが払えず奴隷落ちだな」

「え、と、としま……?」


 驚いたラスティは、俺を見上げるようにして呟く。


「そこどけよ。せいぜい勇者と聖女に媚売って、パーティー追放されないようにすることだな」


 ラスティは急に豹変した俺に驚いたようでストン、とその場に座り込む。

 そんなラスティに構う事なく部屋を後にした俺は、ゆっくりと眠りにつくことが出来た。


 あの日、パーティーを追放されてからどれだけ自分が一人で苦労してきたか、ラスティは何も分かってはいない。

 ラスティのパーティーから追放された俺に、差し伸べる手はなかった。

 故にずっとソロで強くなることだけを考えて生きてきた。

 それがオネエを演じることになったとしてもだ。




 それからラスティとは、同じパーティーが故に最低限喋りはするもののあまり関わることはなくなった。

 ただ時々、なにか言いたそうな表情で俺を見つめてくる事はあったが、俺はそれをスルーしていた。

 俺は相変わらずのオネエキャラを演じ続けていた。



―――そうして三年の時をかけて、魔王を討伐することに成功した。



「ねえ、ねえってば!」


 パーティが解散して、皆バラバラになった後、ラスティは俺の後ろを必死についてくる。


「なによ」

「……これからどうすんの?」

「べつに、また冒険者にもどるだけよ」


 すると、ラスティはうーんと考えたように腕を組み、そうしてまた俺の後ろに小走りでついてくる。


「冒険者ならパーティーが必要でしょう? 魔王を倒した『赤眼のホークアイ』とかどう?」

「なんでよ。あんた報奨金で自由に旅ができるでしょう?」


 そういうと、ラスティは小走りをやめて、ゆっくりと考えるようにして歩く。しかしすぐに小走りで俺の横に並んでこう言った。


「反省したのよ、昔は悪かったって。それにあんたといたら楽しいし……」


 俺は、そうしおらしく言うラスティに、そろそろ許してやらなくもないかと、チラ見する。ラスティは頬を赤く染めるも、表情は暗い。

 

 はあっとため息を吐いた俺は、立ち止まりラスティに向き直った。

 ラスティはもじもじと、あちこちに視点を移している。


「しょうがないわねぇ」


 そういうと、ラスティの表情に光が灯る。

 元は憧れていた人物だ。


 ま、こういうのも悪くないかもね。


 そうして俺達二人はまた、冒険者ギルドの扉をくぐる。

 

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