卒業式の告白

楠秋生

告白したのはどっち?

「亮介の方から告ってきたくせに」

「何言ってんだ。ハナの方からだろ!」

「中学の卒業式の日に‼️」

「そうだよ。卒業式の日に‼️」


 ケンカの度に浮上するこの問題。互いに意識の相違がある。自分は告白された側なんだと思っている。



  👩‍🎓 👩‍🎓



「卒業、しちゃったねぇ」


 クラスのみんなで打ち上げをした帰り道、隣の家の亮介と一緒に帰った。

 

「これでお別れだね」


 仲のいい友達はみんなバラバラの高校に進んだ。なんだか寂しいなぁ。


「そんなことないさ。ずっと一緒だろ」


 そりゃあ亮介とは家が隣だし、たまたま同じ高校に進学なんだから、ずうっと一緒だけどさ。やっぱ卒業ってなんか、こう感じるものがあるじゃん? 鈍ちんの亮介にはこんな繊細な感覚はわかんないか。

 振り返ってちらっと亮介の顔を見る。

 あれ? 亮介の目が少し潤んでいる気がする。

 え? もしかして? もしかしたら、そういう意味!? ずっとって、ずーっとってこと? やっとこ亮介にもそういう感情が芽生えた? 

 まだまだお子ちゃまで、そういうの全く興味なさそうだったのに。ちゃんと、考えてくれてたんだ?

 急にドギマギしてくる。

 まだ、さ。もう少し先でもいいかと思ってたんだ。仲のいい幼馴染みのままでも十分楽しかったから。

 でも、亮介が一歩進みたいというならやぶさかでもない。

 これからもずっとずうっと一緒でいいんだね。


「ずっと一緒だね」


 私の顔は嬉しさで弛んでいたと思う。


「おう、ずっと、な」


 亮介が晴れやかに笑った。

 まだ風は冷たいのに、温度まで変えてしまいそうなあったかい笑顔が眩しかった。

 


  👨‍🎓 👨‍🎓



「卒業、しちゃったねぇ」


 ハナが感慨深げに呟いた。


「これでお別れだね」

「そんなことないさ。ずっと一緒だろ」


 離れたって友達は友達だよ。LINEで繋がってんだし、ハナは昔っから、細かいこと気にしすぎるんだよな。

 不意にくるりと振り向いた。セーラーの襟がひらりと揺れる。いつものハナと違う感じで流し目を送ってくる。

 !! やっと色気づいたか? 色恋なんて全く興味なしのボーイッシュなスポーツマンタイプだったハナ。そういえば、年明けから髪伸ばしてるじゃん。


「ずっと一緒だね」


 そう言ってその名の通り、花が綻ぶように微笑んだ。

 ずっとって、それは、その、ずーっとってことか? オレが、軽く言った友達となんてずっとって言った、それとは違う意味の?


「おう、ずっと、な」


 オレは声がうわずらないように、ゆっくりと言った。

 やったぜ! やっとハナのハートをゲットしたぜ~!

 オレは歓声をあげたいのを堪えるのに必死だった。



  🌸 🌸



「だからぁ、亮介の方から言ってきたからつきあったんでしょ」

「なら、オレから言わなきゃつきあう気はなかったってことか?」

「そんなこと言ってないじゃない。私はちっちゃい時からずっと……あわわ」

「ん? もう一回言ってみろよ。ちっちゃい時からなんだって?」


 途端にからかい口調になる。


「んもう! そんなこと言うなら亮介だって、私から言われなかったらつきあったりしなかったって言うの?」

「そんなこと言ってないだろ。オレはちっちゃい頃からずっと……おわわ」

「ん? もう一回言って。ちっちゃい時からなんて?」


 ハナも負けじと反撃する。


「ぷ。くくくっ」

「くふふふっ」


 いつもなしくずしに終わってしまうケンカ。そんなケンカ? を何度も何度も繰り返し……。



  💍 💍



「卒業式の告白っていいよねぇ。私も誰かから告白されるかな」


 テレビドラマを見ていた花梨がハナに視線をおくってきた。


「好きな人がいるなら、自分から告白するのもありなんじゃないかい?」

「おばあちゃんたちは、卒業式の日に告白しあいっこしたんだよねぇ?」

「しあいっこ……ふふふ。そうだね」


 二人で縁側に座る亮介の背中を見た。


「内緒だけどね。もうすぐじいさんとの金婚式なんだよ。その日にサプライズをこっそり考えてるのさ」


 嬉しそうに言うハナは、いくつになっても可愛らしい。

 ハナには内緒だが、実は亮介からもサプライズ企画を聞いていた。


 こんな幸せな夫婦になりたいな。二人は花梨の憧れだ。

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卒業式の告白 楠秋生 @yunikon

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