シャイボーイ
リュウ
シャイボーイ
僕は、実家に向かっていた。
今は、飛行機の中。
僕の実家は、札幌。
だから、千歳空港まで向かう。
久しぶりに実家に向かう。
<元気か?たまには、帰ってこい。母さんが心配している>
父さんからのメール。
その前に、母さんからもメールも沢山入っていた。
だから、一度帰ることにした。
一人旅なので座る席は、特に指定しなかった。
席は、窓際の横だった。
窓際に誰が来るか分からなかったが、構わなかった。
凄くでかい人が来ないように祈るだけ。
席が埋まり始める。
中々隣の席の人が来ない。
来ないなら来ないで良かった。ゆったり出来るから。
何気なく、外を見つめる。
小さな窓からは、ちょこまかと動き回る荷物運搬車が見えていた。
行先は、千歳と分かっていても、どこか遠い所に行くような気分に浸っていた。
「すみません」
僕の頭の上で、女の声がした。
僕は、左側の通路を向くと一人の女性が立っていた。
あまりの可愛らしさに目を見開いてしまった。
”かわいい”
「あのう、通してもらえませんか?」
「ああ、はい」
僕は、慌てて席から立ちあがり、彼女を席に通した。
何ていい香りだろう。とても軽いやさしい香り。
彼女は、椅子に座り、小さな窓から外を眺めていた。
横顔も上品だ。かわいいだけではなく、綺麗だ。
僕は、驚きのあまり、彼女と話す機会を逃してしまった。
そのまま、飛行機は千歳へと離陸した。
その間、僕はそわそわしていた。
ヘッドホンをしてみたり、雑誌に目を落としたりと、落ち着かない。
ちらっと、彼女を見る。
彼女もヘッドホンをして、雑誌を見ていた。
見とれてしまう。
こんな魅力的な人なら、きっと彼氏がいるはずだ。
こんな僕なんかと比べモノにならないくらい、いいとこの人が。
話しかけたいが、迷ってしまう。
簡単にフラれてしまうような気がして。
僕は。高校は男子校で、大学も工学部だったので、女性には慣れていなかった。
話したいなと思っていたが、最初の言葉を探していた。
時間だけが経ってしまていた。
もう、少しで千歳に着く頃だった。
彼女が何かをメモしていた。
僕は、気付かれないように覗いた。
私は、アメリカ留学から帰ってきたところです。
アメリカでは、私をほおって置かないわ。
話しかけて、
シャイボーイ。
シャイボーイって、僕の事。
それとも、ただのメモ?小説とか詩とかの。
僕の想いは、バレバレだった。
話しかけようと思った時、飛行機が揺れた。
「気象が荒れております。席についてシートベルトをお締めください」
アナウンスが流れ、CAが、客席をチェックして回る。
飛行機の揺れは、収まらなかった。
ジェットコースターに乗っているようだ。
多分、高低差はジェットコースターの比じゃない。
大きな揺れが来たとき、僕は右手を掴まれた、痛いくらいに。
それは、彼女だった。
驚いて彼女の顔を覗き込んだ。
「ごめんなさい。怖いの」
不安気な表情。
初めてショーケースに入れられた不安気な子猫を想像させられた。
僕は、守りたいと心の底から思った。
僕は、右手の指を彼女の左手の指に絡めて握り直すと軽く左手を添えた。
「大丈夫」
僕は、彼女の顔を見る。小さく彼女は頷いた。
もし、このまま飛行機がどうにかなったとしても、彼女と一緒なら、それもありかなっと思った。
しばらくして、揺れは収まった。
僕は、ゆっくりと彼女の手を解き放した。
「もう、大丈夫です」
「ありがとう」
彼女は、これでもかというくらいの素敵な笑顔で答えてくれた。
僕は、彼女の小さく白い手に初めて気づいた。
それから、着陸するまで照れ臭さもあり、二人は話さなかった。
飛行機は、千歳空港に着陸し、僕は、荷物引き換え所に向かった。
荷物を引き取り、バス停に向かおうとした時、僕は肩を叩かれた。
彼女だった。
「先ほどは、ありがとう。家は札幌ですか?」
「あ、はい。札幌です」
「それじゃ、これを持って」
彼女が、指さしたのは、チョコレート色の大きなボストンバックだった。
「えっ、これを持つんですか?」
「そう、札幌に行くんでしょ」
「そうですが……」
「じゃぁ、持って」
彼女は、スタスタと出口に向かって行く。
唖然として、僕は立ち尽くしていた。彼女が振り向いた。
「早くして」
ちょっと、怒っている。それも、かわいい。
「僕が、持っていくの?何故、僕が?」
「何故って……私のこと、好きなんでしょ」
と、言って、彼女は出口に向かった。
僕は、彼女についていくしかなかった。
彼女と一緒なら、これもありか。
シャイボーイ リュウ @ryu_labo
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