彼女達は好き合っている
時谷碧
好き比べ
彼女達は好き合っている。しかし、付き合ってはいない。
彼女達は、その好きの質を確かめることがお互いにできないでいた。はたして友達として好きなのか、恋愛対象として好きなのか。両方から恋愛相談を受けている私から見れば、それはそれは見事な両片思いで、末永く爆発したらいいと思う。
二人で気持ちを探りあっているうちに、冗談めかした好きアピールだけが過剰になり、外見だけはバカップルが完成した。どうしてこうなった?
「
「私も、
ひしと景の左腕にしがみついて、上目遣いに見上げる麻衣の頭を、景がよしよしと撫でる。
「景ちゃん、ワンパターンだよ。私はこんなに好きなのに」
両手を真っすぐ横に広げて、愛の大きさを示す麻衣。
そして麻衣は、景に向かって挑発的にカモンカモンと手招く仕草をする。
これはいつものバトル開始の合図。どれだけ相手のことが好きかで競う。照れたら負け。
「私の愛はこの校舎ごと包んでいるからね。麻衣ちゃんが気づかないのも当然だ」
「校舎? 私の愛は海より深いのに?」
「誰が校舎だけって言った? 大気に私の愛は満ちているとも。今吸ってる空気だってそうさ」
「じゃあ、空気のない宇宙では私は生きていけないな。死んでも景ちゃんが好きだけど!」
空気がなければ、普通人は死ぬんじゃあないだろうか。
「甘いな、私はすでに前々前世から麻衣ちゃんを探してここに来ている」
なんかそういう歌があったような気がする。
「景ちゃんこそ甘いよ、私は前々前世から景ちゃんを見失ったことはない」
「……麻衣ちゃんを探してる私を陰からずっと見てたの? それは傷つくなあ」
景は泣き真似を始めたが、ちらりと覗く口元が笑っている。
「違うよ、私は蚊だったの。私が麻衣だよって言いたかったけど言えなかった。その時牛だった景ちゃんに近づいたら尻尾で叩かれたけどそれも本望」
蚊と牛の恋愛が爆誕した。
「見失わないって、食欲的な意味で?」
「食欲的な意味でも。だって景ちゃんかわいいから、食べちゃいたいくらいだもの」
麻衣は満面の笑顔を浮かべて頷く。正直両方から恋愛相談を受けている身で聞くと、でもがキワドイ。
「うーん。食べられるのも悪くないけど、それだと私は麻衣ちゃんを食べられないから、それは残念」
「じゃあ半分こだ」
ついにカニバリズムに走ったか。
「待って、食べると二人ともいなくなっちゃうから、それはもっと後でやろう」
やるのか。
「話を戻そう。私は麻衣ちゃんが好きだよ、ざるでも溢れるくらい」
ざるの目から漏れる以上の愛がだばだばと注がれて、上からも溢れている。
「どろりと濃厚リッチな愛だね」
ざるの目が詰まった。
「ところで景ちゃん。景ちゃんの愛は抽象的だよ。もっと即物的に生きてみない? 私は景ちゃんとこうやってくっつくと安心するし、ずっとこうしていたいよ?」
麻衣はまた、景の左腕をホールドして肩に顔を寄せる。ふにゃあと頬が緩んで幸せそうだ。この顔、景に見せたらいいのに。
景は甘え猫状態になった麻衣の背中を優しくなでながら、悪い笑顔を浮かべた。
「麻衣。好きだよ。キスしたいくらい」
ぼっと火が出るように麻衣の顔が赤くなって、景の肩に顔を埋めた。
本日は、景の勝ち。
彼女達は好き合っている 時谷碧 @metarou
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