第491話 自慢と失念


「華、そんな顔するな。飛鳥なら、大丈夫だ」


「……え?」


 だが、そんな華を見て、隆臣が話しかけた。


 大丈夫とは、どういう意味だろう?

 華は、首を傾げながら……


「なにが、大丈夫なの?」


「まだ諦めてないからな、飛鳥は」


「え?」


「諦めてるなら、もうダメかもしれない。でも、アイツは、一切、諦める気がないみたいだし、気持ちが折れてないなら、まだ大丈夫だ。だから、お前たちは、堂々としてろ。飛鳥はなんだろ?」


「………」


 自慢の──そう言われて、華は改めて、飛鳥とあかりを見つめた。


 浴衣姿の二人は、とても絵になって、自然と目を引いた。


 それに、喧嘩していているように見えたのに、兄は不思議と楽しそうにしていて、その姿からは、弱気なオーラは一切、感じられなかった。


 それに、隆臣さんに大丈夫といわれたら、本当に、大丈夫な気もして……


「そっか……そうだよね」


 不安げな表情が、自然とほころぶ。


 確かに、お兄ちゃんは、私たちの自慢だ。


 だって、あんなに素敵な人

 きっと、どこを探してもいないもの。


「確かに、お兄ちゃんの良さを一番よくわかってるのは私たちだし、心配する必要はないよね」

 

「そうそう。それに、あの飛鳥が口説けないとしたら、今後、あかりさんを口説ける男は、一切あらわれないと思うぞ」


「え!? 一切!?」


「あぁ。飛鳥ほど、あかりさんを理解してる奴もいないだろ」


「そ、そうかなー? でも、だったら、なんであんなに」


「まぁ、とにかく! 飛鳥な任せて、お前らは、大人しく見守ってろ。そこで顔面蒼白してる、蓮もな」


「うっ……」


 そう言って話を振れば、隆臣の話を聞いていたのか、双子の弟の方も大人しくなった。


 そして、暴走がちな双子を上手く丸め込み、隆臣は、ほっと息をつく。


 妹弟に、あれやこれやとせっつかれたら、飛鳥もやりにくいだろう。

 

 だが──


(とはいえ……アイツ、本当に両思いなんだよな?)


 飛鳥は、両思いだと言っていた。


 だが、あかりの様子をみれば、本気で困っているようにしか見えなかった。


 まさか、好きという気持ちが行き過ぎて、自分に都合のいい妄想をしているわけではあるまいな?


(応援していいんだよな? 俺は、本当に……?)

 

 10年来の親友の言葉を信じたい気持ちと


 バイト先の後輩が、しつこい男に付きまとわられて困っているのではないか?


 そんな二つの感情で、板挟みになる。


 そして、万が一、飛鳥がしつこいストーカーになっているのだとしたら、止められるのは自分だけ!


 これは、しっかり観察しておかないと!!


「華~。あそこのベンチ空きそうだから、私たちは先に場所を確保しに行こう」


「うん、そうだね」


 すると、ある程度、買い物が済んだからか、葉月が華に声をかけ、高校生組は、先にベンチの方へ歩き出した。


 そして、隆臣も、その後に続くのだが、なにかと察しがいい隆臣ですら、一つだけ、失念していることがあった。


 それは──



 *


 *


 *



 シャラン──


 祭りの会場に、美しい金色の髪が、踊るようになびいた。


 長いツインテールの細髪が、灯籠の明かりに照らされながら、キラキラと輝く。


 そして、その髪をもつ可憐な少女が、パタパタと、走り去る度に、出店の前にいる客たちが


「わぁ、あの子、可愛い~」

「お人形さんみたーい」


 と、口々に話をしていた。


 金魚柄の浴衣を着たエレナは、ミサと侑斗の元を離れ、一人きりだった。


 そして、出店で賑わう小学校のグラウンドから、体育館の近くまでやってきたエレナは、軽く息を弾ませながら、スマホを開く。


 スマホの画面には、先ほど、華から届いたメッセージが表示されていた。


【さっき、あかりさんと合流したよ~】


 可愛いウサギのスタンプ付きで、送られてきた明るいメッセージ。

 

 そして、それを見て、エレナは思ったのだ。


(飛鳥さんが、あかりお姉ちゃんと会えた。なら、私がここで迷子になれば、二人っきりにできるかも……!)


 ミサにも侑斗にもバレずに、行方をくらますことに成功したエレナ。


 そして、エレナは、一度は掻き消えたはずの『迷子計画』を、一人っきりで実行しようとしていた。


 そう、隆臣は失念していた。


 あの双子の他に、もう一人、お兄ちゃんのために暴走しがちながいたことを。


 そして、その妹が行方不明になったことで、暴走しかねないがいるということも……


 

 画して、祭りの夜は

 予期せぬ方向へと進んでいく。


 はたして、エレナは見つけられるのか?


 そして、お兄ちゃんの恋は、どうなってしまうのか!?


 次回に続く!!




 


*あとがき*

https://kakuyomu.jp/works/16816927861981951061/episodes/16818023214307189427

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