第490話 隆臣と華


「隆臣さん、助けて!!!」


「──!?」


 急に華に泣きつかれ、隆臣は瞠目する。


 幼い頃から、家族ぐるみの付き合いがあるため、最近は、よく頼ってきてくれる。


 それが、一人っ子の隆臣としても誇らしく、とても喜ばしいことではあるのだが──


「ムリだ」


「えぇ! 即答!?」


「悪いな、華。俺も、飛鳥のことは応援してやりたいが、あかりさんの気持ちを無視して、外野が、とやかく言う訳にはいかないだろ」


「そ、そうだけど……でも、このままじゃ、蓮が寝込んだことを、一生、後悔するかもしれないし、お兄ちゃんだって…っ」


 コソコソと話をしつつも、酷く心配そうに見つめられた。


 昔から華は、家族思いの優しい子だった。

 

 だから、蓮だけでなく、兄の今後についても心配しているのだろう。


 だが、さすがの隆臣にも、できないことはある。


「華、落ち着け。この件は、飛鳥に任せておけばいい。大体、お前たちが暴走したら、うまくいくものもいかなくなるだろ」


「う……っ」


 若干、心当たりがあるのか、華は口ごもった。


 確かに、最近、やたらと強引だった。


 あかりさんを無理やり家に連れていき、兄の隣で、お好み焼きを食べさせてみたり。


 これでもかと、兄についてプレゼンしまくったり。


 もしかしたら、めんどくさい妹弟がいると思われてたかもしれない!!


「そ、そうだよね……分かった…っ」


 今は大人しく見守ろう。

 華が、こくりとなづけば、隆臣は──


「まぁ、仮に上手くいかなかったとしても、誰のせいでもない。ただ、縁がなかっただけだ」


「縁が?」


「あぁ。縁があれば、きっと切れずに続いていく。俺と飛鳥の腐れ縁が、未だに繋がってるみたいにな。それに、せっかく、あかりさんと会えたんだから、華は、普段通りに接して、おもいっきり祭りを楽しめばいい」


「普段通り?」


「あぁ……それこそ、飛鳥の恋が上手くいったら、来年は、一緒には来れないかもしれないだろ」


「あ…」


 そう言われ、華は目を見開く。


 確かに、兄があかりさんと両思いになったら、もう三人で一緒に夏祭りに来ることはないかもしれない。


「そっか……そうだよね」


 それは、ずっと考えてきたことだった。


 お兄ちゃんに彼女ができたら


 家族みんなで過ごす、この時間が

 


 あっさりと



 終わりを迎えるのかもしれない。



 

(なんで、忘れてたんだろう? ずっと、考えてたことだったのに……)


 

 昔は、それが嫌だった。


 嫌だ──と、気づいてしまった。



 お兄ちゃんには、ずっと、そばにいて欲しい。


 


 『お母さん』のように




 ずっとずっと、隣で





 ──見守っていて欲しい。





 だから、お兄ちゃんが彼女を作らないことに



 不満を言いながらも



 どこか、安心していた。


 


 お兄ちゃんに、彼女ができなければ




 私たちの、この世界が壊れることはない。




 ずっとずっと、この幸せが続いていく。




 そう、安心できたから。




 でも──…



 

(なんでかな? 今は、そんなに……嫌じゃない)



 これは、相手が、あかりさんだからなのかな?



 きっと、相手にも、よるのかもしれない。

 


 だって、あかりさんを好きになったあとも



 お兄ちゃんは、何も変わらなかったから。




 《一番が、たくさんいちゃダメなの?》



 

 お兄ちゃんは、前にそう言っていた。



 大切な人たちに、優劣なんてつけない。



 お兄ちゃんは、そういう考えの人で。



 そして、あかりさんは


 そんな、お兄ちゃんのことを、よく理解してくれる人。



 だから、お兄ちゃんは



 あかりさんを好きになったのかもしれない。


 


(……そっか。だから、私たちも、必死になっちゃうんだ……っ)



 《"お義姉さん"ができるなら、あかりさんがいい》



 蓮が、そう言っていたように


 

 私も同じ気持ちを抱いてる。



 だからこそ



 このまま、あかりさんとの縁が



 切れてしまわないように




 必死になってしまう──…




(なんで、あかりさんが、お兄ちゃんの気持ちに答えてくれないんだろう?)



 不意に、胸の奥が、キュッと締め付けられた。


 

 お兄ちゃんには、幸せになってもらいたい。



 そのためには



 あかりさんに好きになってもらわないといけない。



 それなのに、なにも出来ない。



 ただ、見てるだけ。



 それが、歯がゆくて



 とても、もどかしい──…っ



 

「──華」


「……!」


 すると、そんな華を見て、隆臣が話しかけた。


 隆臣は、優しい表情で華を見つめると



「そんな顔するな。飛鳥なら、大丈夫だ」


「え?」



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