第474話 恋人と親友


「でも飛鳥、今、がいるんでしょ?」

「え?」


 するりと放たれたミサの言葉に、侑斗はゴクリと息を呑んだ。


 まさか、ミサの口から、そんな言葉が飛び出すとは!?


「な、なんで、そんなこというんだ?」


 多少しらばっくれつつ、侑斗は様子を伺った。

 すると、ミサは

 

「私、飛鳥は、隆臣くんと付き合ってるって聞いたの」


「は??」


 あまりの話に、思考が止まりかけた。

 飛鳥が、隆臣くんと付き合ってる???

 

「ちょ、なんだ、その話は!?」

 

「エレナが言ってたのよ。二人は、友達以上の関係だって」


「友達以上!?」


 え!? なにそれ!?

 飛鳥、隆臣くんと付き合ってるの!?


 いやいや、そんなはずない!!

 だって、あの子は、が好きなんだから!


(あ……でも、俺この前……っ)


 だが、その瞬間、侑斗はあることを思い出した。


 二週間ほど前、飛鳥と二人で晩酌をしていた時、落ち込んでいる飛鳥に、侑斗は言ったのだ。


『しばらく、あかりちゃんのことは考えず、別の選択肢も考えてみろ』──と。


(あぁぁぁ!! もしかして、俺があんなこと言ったから、とっとと見切りをつけて、隆臣君に乗り換えたとか!?)


 いや、待て!?

 本当に、それでいいのか、飛鳥!?

 

 お前は、あかりちゃんを、そんなに簡単に諦める子だったのか!?


 確かに、隆臣くんは、いい子だよ!

 

 飛鳥と仲良しなのは、よく知ってるし、隆臣くんが、女の子だったら、余裕で付き合ってたかもなーなんて、パパも思ったことあるよ!


 だけど、こんなに早く!?

 え!? 二週間で鞍替え!?

 しかも、親友である隆臣くんに!?

 

「でも、それは、だったみたいなの」


「もっと、早く言って?!」


 だが、侑斗の思考が『息子の彼氏は隆臣!』で埋め尽くされた直後、ミサが誤解だといい放ち、侑斗は激しくつっこんだ!


 誤解なら、よかった!


 だが、紛らわしい!

 とてつもなく、まぎわしい!!


 というか、なんで、そんな勘違いをしてたんだ、コイツは!?

 

 あー、でも、昔から、思い込みは激しかったなぁ!?

 そのせいで、一家崩壊したようなもんだしなー!


「お前さ、勘違いが激しいのも、大概にしとけよ。それに、隆臣くんは、酔った飛鳥を見ても理性を保てる、めちゃくちゃいい子なんだぞ」


「わかってるわよ! でも、いい子だからこそ、飛鳥の恋人に相応しいと思ったのよ!」


「恋人とか言うの、やめて! あの子たちは!! 恋人ではないから!? だいたい、どうやって誤解だって気づいたんだ! まさか飛鳥に直接、聞いたわけじゃ」


「ち、違うわ。に相談したのよ」


「は?」


「あかりさん、飛鳥と仲が良いし、なにか知ってそうだと思って……そしたら、あかりさん、直接、飛鳥に聞いてくれたみたい。『付き合ってないみたいですよ』って教えてくれたわ」


「…………」


 もはや、二の句が告げなかった。

 

 というか、飛鳥、あかりちゃんに直接、聞かれたの?

 隆臣さんと、付き合ってるんですかって?


 え? それ、辛くない?

 好きな女の子に、男と付き合ってるか確かめられるって、飛鳥の心、大丈夫?


 というか、俺が海外に言ってる間に、色々あったんだなー。


 もう、パパ心配だよ!

 来年の春と言わずに、今すぐ日本に帰ってきたいくらいだよ!


(飛鳥……俺がいない間に、色々、苦労してたんだな……っ)


 そりゃ、悩むし、落ち込むわ!

 

 侑斗は、あんなにも悩んでいた飛鳥のことを思い出し、思わず目頭を押さえた。

 

 だが、そこに、またミサが


「でもね。隆臣くんと付き合ってないのはわかったんだけど、飛鳥、言ってたのよ」


「え? なにをだ?」


「前に、私の会社に、お弁当を届けてくれた時に──」


 話しながら、ミサは思い出す。


 それは、ミサがお弁当を忘れ、飛鳥がとどけてくれた時のことだ。


 女子社員に囲まれ、困っていた飛鳥を助けるために

 

『飛鳥には、もう心に決めた人(隆臣)がいるから、どんなに口説いても、ダメよ!』


 そう言って、女子社員たちを追い払ったことがあった。


 だが、自分の好きな人を、ミサが知っていることに、飛鳥は驚いていたようだった。


「私は、隆臣くんのつもりで『飛鳥が本気で好きなら、私は応援するわ』っていったの。そしたら、飛鳥『認めてくれるの?』って、ほっとした顔をしていて……でも、隆臣くんと付き合ってないってことは、あの時、飛鳥が言っていた相手は、別の誰かってことよね?」


「…………」


 なるほど!

 ミサの言い分は、よくわかった。


 だが、飛鳥の好きな人が、あかりちゃんだと、ミサに、伝えていいものか?


(あかりちゃんって、どことなく、ゆりに似ているんだよな。伝えて、厄介なことになったら、飛鳥に申し訳ないし……)


「ねぇ、侑斗。飛鳥の好きな人って誰だと思う?」


 だが、ミサは更に問いかけてきた。


 そりゃ、可愛い息子の好きな相手だ。

 気にならないわけがないだろう。


 だが、言ってはいけない気がする!

 

(ここは、知らないフリをして……っ)


「男かしら、女かしら?」


「は?」


「だから、飛鳥の好きな相手」


「いや、そこから!?」

 

 まさか、まさかの、性別から!?


「いやいや、それは、女の子に決まってるだろ!」


「わからないじゃない、今の世の中。なにより飛鳥は綺麗だし、男の子に告白されることもありそうだし!」


 いや、気持ちは分かる!

 

 それに、確かに、飛鳥は男にもモテる!


 しかも、男ですら、その色香で惑わすほどの絶世の美男子だ!


 ゆえに、男性に告白されたことだって、実際にあるようだった!


 しかし、どんなに見た目が可愛くても、飛鳥の恋愛対象は、間違いなく女の子!!


 これは、揺るぎない事実!!

 

「それに私、飛鳥のためにBL読んで、勉強したのよ! 」


「え?」


 だが、その後、ミサから聞きなれない単語が飛び出し、侑斗は首を傾げた。


「ビーエルってなんだ?」


「え? 侑斗、BLしらないの?」


「えーと、ビジネスロジックのことか?」


「違うわよ。BLは、ボーイズラブのこと。男性同士の恋愛のことをいうのよ」


「………」


 男性同士の恋愛??


 真面目な顔で話すミサに対し、侑斗は、まさかの内容に困惑していた。

 

 いつの間にか元妻が、とんでもない沼に足をツッコミそうになっている!?


 そして、それに気づいて、ちょっとだけ、ミサのことが心配になってしまったのだった。

 




*後書き*

https://kakuyomu.jp/works/16816927861981951061/episodes/16817330664387606452

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