第47話  異能力チート、撃たれる。

「うわあああああん出てけよおおおおあっちいけよおおおおおお男はいらねえんだよおおおお!!!」



 ぷぺぺぺぺぺぺぺぺ……



 目の前の小太り少年が泣きながらモデルガンを連射してくる。いやー俺も子供の頃持ってたなあ、モデルガン……そんなことを考えながらなつかしのBB弾を全身に被弾する俺。なお全身強化しているので痛みはない。

 え? 怒らないのかって? いやいや相手は子供よ? どっかのアホヤクザトリオならまだしもさすがに子供に対しては穏便にいきたいよ。

 しばらくすると弾が尽きたのか、はひはひと息を切らしてその少年はその場に座り込んだ。


「えーと、それで」


 なんとも気まずい空気が流れる中、とりあえず保護するべきだなと声をかける。

「大丈夫か? どこも怪我は……よし、してなさそうだな。おい立てるか?」

 しかし少年からの返事はなく、今度は俯いたままぶつぶつぶつぶつ小声で何か言い出したのである。

 ひ、ひえー……呪詛みたいに聞こえてきて怖いのですが? おじさん泣いちゃう。最近はいきなりキレる子供とか、少年犯罪の事件とかも見るし……だ、大丈夫だよな?

「あー……うん。とりあえずさ、ここは危ないから! いやマジで。さっきもゾンビいたし、きみだってゾンビから逃げるために隠れてたんだろ? なっ?」

 それでも大人として子供をひとり放っておけるわけがない。

 そう言って俺は優しく手を差し伸べたが


「いやだ」

「エッ」


「俺はもう誰も信じないぞ! 男の言うことならなおさらなあ!!!!」

 ぎゃおんと叫び少年はまた小部屋に戻ろうと身を翻したのだ。


「ちょっ、ちょちょちょ待て! 待て待て待て! 戻って閉じこもってどうすんだよ!? その部屋見た感じなんもねえじゃねえか!」

 床に散らばる数個のお菓子袋とペットボトルはどれも空っぽだ。いつからここに籠城していたかはわからないが――まあこいつ普通に元気そうだしそこまでの日数は経ってなさそうだな――とにかく、またいつゾンビがやってくるかわからない状況で何もない部屋に籠るのは悪手だろう。俺の言葉に、少年はウグッと不服そうに口を結ぶ。そしてまたじろりと睨んできた。

 ええー……俺きみに何かしたー?

 しかし先程の少年の言葉。もう誰も信じないぞ、か。もしかしてこいつ、俺が来る前に誰かに裏切られたのだろうか?

 そう考えると、自然としっくりきた。

 突然こんなゾンビだらけの世界になって、俺は理由はまったくわからないが運良く異能力チートに目覚めたからこそなんとかなってきただけなんだ。

 普通の人にとっては今の世は常に死と恐怖と隣り合わせであり、この瞬間にもゾンビに喰い殺されている人がいるのかもしれない。まさに地獄だ。

 地獄だからこそ、人々は生き残るために協力することもあれば同じく生き残るために他人を犠牲にするだろう。だから、この少年も必死なのだ。生き残るために。誰かを信じた結果裏切られて、そこで死ねばすべてが終わりなのだから。


「……きみの気持ちはわかるよ。怖いよな、つらいよな。でもさ、俺はここで、はいそうですかさよならってきみを見捨てていけるほどんだよ。だからせめて今よりマシな所まで連れて行かせてほしいんだ」

「……マシなとこなんて、あんのかよ……」

 少年が背を向けたまま呟く。

「わからん。だが確かに言えるのは、今そこの部屋に籠るよりは絶対にマシだってことだ」

「…………」

 少年は熟考しているのか俯き、爪を噛んでいる。しかし少しすると小さく首を振り、黙って部屋へと戻っていった。

「…………だめかー」

 その場で俺はがっくりと肩を落とす。

 人間不信と恐怖へのトラウマはそう簡単に克服できるものではない。それは異能力チートの俺にも理解できる。それでも――だ。俺は扉越しに少年に声をかけた。


「わかったよ。でもさ、もし少しでも気が変わったら屋上に来てくれないか!? 実は今俺たち……あー、俺とあと女の子たちと、おまけに三人くらいアホを捕まえてるんだが、まあとにかく! 俺たちしばらくはここの屋上にいるから……」


「えっ」

「エッ」


 突如扉ごしに聞こえた声におもわず俺は目を丸くし……閉じたばかりの小部屋の扉があっさりと開いた。そして少年が顔を出す。


「…………今、なんて?」

「えっ? 俺たちしばらくここの屋上で待ってるから……」

「その前だよ誰がいるって!?」

「ハア!? いや、ええと、女の子たちと」


「それを早く言えーーーーーー!!!!」

「えええーーーーっ!?」


 またいきなりキレられたかと思えば今度は屋上に向かって全力で駆け出した少年に俺は呆気に取られ


「はっ!? いやいやいや! おい待てって!」


 慌てて少年のあとを追うのであった。

 やっべー、なんかまた面倒なタイプの奴に会っちゃった気がする……。

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